研究課題
今年度は、代表者の磯崎が大学院生や現地の研究協力者と共に、夏季にモンゴル国で、また秋季に英国において野外地質調査と岩石試料を行なった。モンゴル国中部のハンガイ山地中央部のバヤンホンゴル地域、アルバイヒール地域、およびウヤンガ地域において、デボン紀から石炭紀の付加体中の遠洋深海チャートと海溝砂岩を、また英国スコットランド南部のバラントレー地域とアビントン地域においてオルドビス紀の遠洋深海チャートと海溝砂岩を、ともに野外で付加体の海洋プレート層序を認定した上で、採取した。岩石試料はすぐに日本に移送され、研究室でチャート中の微化石の抽出/年代決定、砂岩中の砕屑性ジルコンのU-Pb年代測定、そして泥岩の微量化学分析を始めた。その結果、これまでに複数地点からコノドント及び放散虫化石を新たに発見し、ジルコン年代測定の結果と合わせて、チャートの年代範囲と大量絶滅層準との層序関係に新たな制限を得た。また英国で採取した一部のオルドビス紀の黒色泥岩について分担者の澤木、石川、高畑および佐野が微量化学組成、とくにヘリウム同位体比の測定を始めたが、地球外物質の候補は未発見である。一方、分担者の尾上は大学院生とともに岐阜県舟伏山地域において野外地質調査と岩石試料を行なった。採取したペルム紀のチャート及び珪質泥岩試料について、高畑、佐野ほかが微量元素組成とヘリウム同位体比の詳細分析を行なった。その結果、これまでペルム紀/三畳紀境界の直下からだけ識別された、高いヘリウム3同位体比を持つ層準が、さらに下位のペルム紀後期前半の層準により強くまた厚く記録されていることが新たに判明した。これはペルム紀中期末のG-L境界での大量絶滅事件の層準に近く、絶滅原因が異例な地球外物質の大量流入と密接に関係していた可能性が高いことを示す重要な発見である。これらの成果の学会発表および論文化を進めている。
2: おおむね順調に進展している
国内外における野外調査および室内分析作業は、ほぼ順調に進んだ。当初、古生代に3回起きた主要な大量絶滅事件(オルドビス紀末、デボン紀後期、そしてペルム紀後期)について、地球外物質の流入を検出する目的で、当該年代の地層試料の確保を最優先した。初年次には、モンゴル、英国そして日本での調査と試料採取を実施した結果、各々の事件について研究対象とする地層の確保が着実に進んだが、未だ全てを入手できていない。そこで、2年次以降に、再びモンゴルと日本、また新たにカナダ東部において、詳細な野外調査と試料採取を行う予定である。一方、微量化学分析の面では、G-L境界での大量絶滅に関して地球外物質の流入を示す世界で最初の重要な成果が検出された。本計画の最初の目標の一つが達成されつつあり、また研究手法の妥当性が確認された。さらに詳細を詰める必要があるが、研究計画は着実に進展している。また成果発表に関しても、招待講演を含む国際学会での口頭発表や、英文/和文ともに成果を広く公表している(別項参照)。
二年次も、昨年度に採取した試料については継続して分析を進める予定である。とくにペルム紀の事件に関するデータが集まりつつあるので、さらに古いデボン紀とオルドビス紀の例についても地球外物質の流入と大量絶滅との因果関係の明示を試みる。1例のみならず、2例目、3例目が確認されれば、これまでとは大きく異なる絶滅原因論が確立されることになる。このような展望で、海外における野外地質調査や学会参加についても、初年度と同様に2年次にも実施する予定であるが、コロナ禍により本年度内の海外渡航は極めて難しい状況にある。とりあえず夏季までの状況の推移を見て判断するが、海外渡航がほぼ不可能と判断された場合は、それに関わる研究補助金の一部を来年度へ移行する可能性も考えている。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (20件) (うち国際共著 8件、 査読あり 20件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 8件、 招待講演 2件) 図書 (1件)
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