研究課題/領域番号 |
19H00713
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
市原 美恵 東京大学, 地震研究所, 准教授 (00376625)
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研究分担者 |
亀田 正治 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (70262243)
桑野 修 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 付加価値情報創生部門(数理科学・先端技術研究開発センター), 研究員 (30511969)
大槻 道夫 大阪大学, 基礎工学研究科, 准教授 (30456751)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 粘弾性流体 / マグマ / 破壊 / レオロジー / 火山 / 降伏応力 / 懸濁流 |
研究実績の概要 |
爆発的な火山噴火ではマグマなどの複雑流体が急速な変形を受けて破砕し火山灰などが形成される.このような流体破壊の物理を解明することを目的とし,理論・実験・数値計算を組み合わせた研究を実施した.マグマを模擬するソフトマター物質としてひも状ミセル水溶液と市販の整髪ジェル水溶液を選出した.レオメーターによるレオロジー試験を行ったところ,ひも状ミセル水溶液はマクスウェル型の粘弾性を,ジェル水溶液は降伏応力と歪み速度弱化の特徴を示した.いずれもマグマ物性の特徴の一部を表している.これらの流体の中で気泡を急膨張させたり円柱を急速に動かしたときの流動と破壊を調べる実験装置を設計・製作した.そして,気泡や円柱周りの弾性歪み場を可視化する装置も組み立てた.一方,水蒸気噴火においてマグマ噴火とよく似た音波が形成されていることから,水蒸気噴火噴出物である火山泥もマグマと共通の破壊メカニズムを持つ可能性がある.そこで,天然の火山泥のレオロジー試験を実施したところ,ジェル水溶液とよく似た物性を示した.しかし,火山泥は固体粒子と低粘性流体からなる懸濁流体であり,そのレオロジーは計測方法によって見かけの物性が変化する可能性が指摘されている.球形粒子と液体からなる懸濁流に対し,変形中の粒子体積分率を制御した計測と粒子圧力を制御した計測を別々に行うことにより,懸濁流の見かけ粘性の歪み速度,固体粒子体積分率,粒子圧力などの間の普遍的な関係を得ることに成功した.理論と計算のパートでは,マクスウェル型粘弾性の様々な非線形構成方程式を整理し,適切と思われるものを選定した.そして,それを,有限要素法とフェーズフィールド法を組み合わせた粘弾性流体の破壊シミュレーションコードに実装した.オンラインによる研究会を複数回開催し,各国からの共同研究者(フランス・イスラエル・イギリス・チリ・日本)との議論を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナ感染症による入国規制により,外国人研究者の参画が遅れ,実際の予定を繰り越しての実施となった.しかし,入国待機の間に,滞在中のフランス・マルセイユ大学において,懸濁流の精密なレオロジー試験を実施することができ,主に高分子水溶液を対象としていた本プロジェクトに対して新たな展開が得られた.そして,火山泥の爆発という火山現象を応用対象に含めることになり,本研究と火山実現象との距離が飛躍的に縮められた.また,国内で進めていた実験や理論的な研究は国際的な多分野で注目され,アメリカ地球物理学会2021年秋季大会で招待講演を行った他,2022年度は3つの国際会議(2022年7月:Banff International Research Station workshop,2022年11-12月:Kavli Institute for Theoretical Physics program,2023年1-2月:International Association of Volcanology and Chemistry of the Earth’s Interior)に招聘されることとなった.これまでの研究成果はすでに出版されたもののほか,現在投稿中のものが1編,投稿準備中のものが2編あり,2022年度中に出版できると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により,マクスウェル粘弾性流体と降伏応力を有するジェル水溶液の間で,流動と破壊の挙動が大きく異なること,マクスウェル粘弾性流体の破壊は必ずしも臨界歪み速度で決められないこと,レオロジーという点ではジェル状水溶液と火山泥や結晶を含むマグマが似ていることが分かった.これらの結果は,これまで考えられてきたマグマ破砕条件の見直しが必要であることを示唆しており,火山爆発のモデルを大きく変える可能性がある.一方で,火山泥のレオロジー計測値は,液体と固体粒子の密度差による沈殿効果が大きく働いた見かけのものである可能性は排除できず,この問題を除外した理想的な系を作り,レオロジー計測および流動―破壊実験を行い,ジェル状水溶液やマクスウェル粘弾性流体の結果と比較する.また,数値計算では,これまで伸張実験の文献データを再現することでシミュレーションコードの調整を行ってきたが,今後は本研究による実験データの再現も試みる.2022年度後半には,Kavli Institute for Theoretical Physics によって主催されるMultiphase Flows in Geophysics and the Environment 研究プログラムに参加し,本研究の成果を紹介するとともに,世界各地の専門家と議論をして本研究課題の総括を行う.
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