研究課題
前年度の研究により、隕石のモリブデン化学分離法を地球試料に適用した場合、スズおよびニオブがモリブデンと共存してしまうことが判明した。そこで、陰イオン交換樹脂を用いた新たな化学分離過程を加えることにより、この問題を解決した。また、表面電離型質量分析計(TIMS)を用いたモリブデン同位体分析法では、新たにダブルフィラメントを用いた分析法の開発を行った。従来のシングルフィラメントでは1回の分析に2000 ngのモリブデンを必要としたが、新たな方法の開発により、従来の25%(500 ng)のモリブデン量で同精度の分析が可能となった。太古代地球試料の分析では、変質したコマチアイトに代わり、初期太古代アカスタ片麻岩体苦鉄質岩を対象にモリブデン同位体分析を行った。これらの試料は源岩形成以降に変成作用を被っているが、オスミウム同位体比の解析からレニウムやモリブデンに関する移動が生じていないことが示された。そこで、新たに開発したスズおよびニオブを除去する化学分離法、並びにダブルフィラメントを用いたモリブデン同位体分析法を5試料に適用した。その結果、誤差範囲を超える非質量依存モリブデン同位体異常は見つからなかった。このことは、アカスタ片麻岩体苦鉄質岩の起源物質は既に現在の地球マントルと同じモリブデン同位体組成を持っていたことを意味する。理論研究では、前年度に引き続き、地球型惑星の成長における地殻・マントル・コア間の元素分配に関する理論モデルの構築を進めている。
2: おおむね順調に進展している
分析技術の開発では大きな進歩があった。まず、前年度問題となっていたスズとニオブが共存してしまう問題を解決することができた。また、TIMSによるモリブデン同位体分析において、ダブルフィラメント法を導入することにより、従来の四分の一の試料量で同精度の分析が可能になったことは特筆すべきである。一方、太古代地球試料の分析では、地球上最古の岩石として太古代アカスタ片麻岩体苦鉄質岩のデータを出すことに成功した。ただし、本研究の作業仮説である、s-processに富んだ原始地球の成分は検出されなかったため、更なる試料の分析が必要であることがわかった。コロナ禍による実験の制約があり、2020年度前半はほとんど実験を行うことができなかった。それにもかかわらず、上記のような成果が出ているため、おおむね順調に進展していると判断した。
研究計画1:太古代試料のモリブデン同位体分析:アカスタ片麻岩体苦鉄質岩のモリブデン同位体分析を継続する。また、コマチアイトに関しては、バーバートンおよびゴルゴナの試料を対象に、核合成起源モリブデン同位体異常の分析を実施する。更に、太古代試料のモリブデン安定同位体分別(MDF)の測定も行う。研究計画2:コマチアイトの記載:バーバートンおよびゴルゴナのコマチアイトの白金族存在度に関する記載を行う。また、コマチアイトの硫黄存在度について、分析法の立ち上げを検討する。研究計画3: 地球型惑星集積の数値モデル化:惑星集積過程と衝突過程を組み合わせたモデルに同位体情報を組み込み、地球集積時の元素分配進化を計算する。
すべて 2021 2020
すべて 雑誌論文 (13件) (うち国際共著 5件、 査読あり 13件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (22件) (うち国際学会 9件、 招待講演 3件)
Minerals
巻: 11 ページ: 176~176
10.3390/min11020176
Encyclopedia of Geology 2nd edition
巻: 5 ページ: 1~19
10.1016/B978-0-08-102908-4.00121-1
Science Advances
巻: 7 ページ: 3647~3647
10.1126/sciadv.abe3647
Journal of African Earth Sciences
巻: 173 ページ: 104021~104021
10.1016/j.jafrearsci.2020.104021
Icarus
巻: 354 ページ: 114064~114064
10.1016/j.icarus.2020.114064
Geochemistry International
巻: 58 ページ: 1193~1198
10.1134/S0016702920110063
Precambrian Research
巻: 347 ページ: 105803~105803
10.1016/j.precamres.2020.105803
Scientific Reports
巻: 10 ページ: 1-9
10.1038/s41598-020-65641-6
Lithos
巻: 366-367 ページ: 105564~105564
10.1016/j.lithos.2020.105564
Island Arc
巻: 30 ページ: 1-34
10.1111/iar.12381
Geochimica et Cosmochimica Acta
巻: 280 ページ: 221~236
10.1016/j.gca.2020.04.017
GEOCHEMICAL JOURNAL
巻: 54 ページ: 81~90
10.2343/geochemj.2.0587
The Astrophysical Journal
巻: 898 ページ: 30~30
10.3847/1538-4357/ab9897