研究課題
昨年度に引き続き、太古代試料であるアカスタ片麻岩体苦鉄質岩のMo同位体分析を実施した。その結果、標準試料より低い94Mo/96Moおよび95Mo/96Mo比を持つ(=s-processに富む)試料が2点発見されたが、観察されたMo同位体異常の程度はごくわずかであった。この2点を除くほとんどの太古代試料は、誤差範囲で現代マントルと一致するMo同位体組成を持つことが分かった。また、核合成起源Mo同位体異常に加え、太古代試料のMo安定同位体分別(MDF)測定も行うため、分析法の立ち上げを行った。ダブルスパイクTIMS法を用いて現代の玄武岩である伊豆大島や新島の試料を測定したところ、先行研究と一致する結果を得た。分析に必要なMo量は50-100 ngと微量であり、太古代試料に十分適用可能であることが分かった。更に、コマチアイトの親鉄元素および親銅元素存在度を精密測定するため、分析法の立ち上げを行った。サンプルに濃縮同位体スパイクを加え、Carius tubeを用いて酸分解し、得られた溶液をトリプル四重極型ICP-MS(iCAP-TQ)で測定した。ガス反応セルを用いて干渉分子イオンを軽減させて測定することにより、高精度・高確度のデータを得ることに成功した。一方、地球集積モデルに関しては、初期太陽系の炭素質コンドライト(CC)―非炭素質隕石(NC)同位体二分性と地球の原材料物質との関係を数値計算から求めた。その結果、地球の原材料の90%はNC的、10%はCC的物質で構成されることが判明した。更に、Late Accretionで加わった物質も約90%がNC的、10%がCC的であることが明らかになった。これは、CC的物質がLate Accretionで加わったとする従来の仮説を覆す結果であるが、太古代試料と現世マントルのMo同位体組成に大きな違いがない、という我々の分析結果とは矛盾しない。
2: おおむね順調に進展している
太古代試料のMo同位体分析では、当初想定していた大きなs-processの異常がほとんど観察されず、原始地球と現世マントルが同じMo同位体組成を保持している可能性が示された。これは原始地球とLate Accretionで加わった物質が同じMo同位体組成を持っていたことを意味する。一方、分担者の数値計算からも原始地球とLate Accretion物質がほぼ同一のNC:CC比率(9:1)を持つことが示されており、太古代岩石試料の同位体分析の結果と数値計算による地球形成モデルとが矛盾していないという結果が得られた。このように、本課題の目標である「実験に基づく地球化学的研究」と「理論に基づく惑星科学的研究」との融合が実を結びつつある。新型コロナウイルス蔓延による実験上の制約があり、ここまで得られた太古代試料のMo同位体分析点数は必ずしも多くないが、本課題はおおむね順調に進展しているといえる。
太古代試料のMo同位体分析に関しては、核合成起源同位体異常を検出した2試料の測定を繰り返し行い、異常の確からしさを調べる。並行して、昨年度開発したダブルスパイク法によるMo安定同位体分別の測定も実施する。また、初期地球に大きく寄与したと考えられるNC隕石に関して、先行研究で未測定あるいは測定数が著しく少ない試料(メソシデライト、ユークライト、未分類エイコンドライトなど)を対象にMo同位体分析を行う。コマチアイトの分析に関しては、トリプル四重極ICP-MSを用いて親鉄元素および親銅元素存在度を精密測定し、初期地球から現世にいたるマントルの親鉄元素および親銅元素存在度の時間変化を調べる。もし太古代試料がごくわずかな核合成起源Mo同位体異常を持つのであれば、それは原始地球とLate Accretion物質の間にわずかな組成の違い、すなわちNC:CCの比率の違いが存在することを意味する。太古代試料のMo同位体組成を決定し、それが数値計算で再現できるかどうかを調べる。
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