研究課題/領域番号 |
19H00716
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
太田 健二 東京工業大学, 理学院, 准教授 (20727218)
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研究分担者 |
伊藤 正一 京都大学, 理学研究科, 准教授 (60397023)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 地球中心核 / 鉄合金 / 熱伝導率 / 電気抵抗率 / 自己拡散係数 / ダイヤモンドアンビルセル / 二次イオン質量分析法 |
研究実績の概要 |
高温高圧環境の地球中心から地表へと向かう大きな熱流は外核とマントルの対流を誘起することにより、約40億年続くとされる地球ダイナモやプレート運動などのダイナミクスの原動力となる。熱伝導率や電気伝導度、粘性率などの輸送特性は地球内部の温度構造と熱進化、ダイナミクスを探るための基礎的な物理量だが、地球中心核の温度圧力条件での測定例は極めて少なく、その報告値には研究グループ間で大きな差異が生じている。本研究の目的は、地球の核を構成する鉄ー軽元素合金の液体、固体状態での熱輸送特性を実際の地球中心核の温度圧力条件における実験から制約することである。実験で得られる核構成物質の電気・熱伝導率、自己拡散係数から外核・内核の伝導と対流による熱輸送特性を明らかにし、初期地球温度とその冷却過程、内核の誕生時期とダイナミクスなどの地球の熱進化に制約を与えることを目指す。 本課題の3本の柱は、1)放射光X線回折(XRD)測定実験によって選択配向評価を行った多結晶体hcp鉄(および鉄合金)の高温高圧下その場電気・熱伝導率同時測定、2)二次イオン質量分析法(SIMS)を用いた鉄同位体比測定による、hcp鉄の高温高圧下自己拡散係数決定、3)サファイアカプセル封入法による鉄(および鉄合金)の溶融状態での伝導度測定である。これら3つのテーマを代表者、分担者、指導学生の計5名が主体的に取り組んだ。1)のテーマについては、単結晶鉄試料から高圧相を合成した際の組織変化機構を概ね理解することが出来、その結果を投稿論文として投稿した。その結果に基づき純鉄の結晶選択配向を考慮した電気・熱伝導率測定を引き続き行っている。2)のテーマでは、SIMS分析に適した高圧試料の研磨手法を確立し、高圧鉄試料内部の同位体比の測定に成功した。3)のテーマでは、サファイアカプセル封入法を利用し、液体鉄の電気抵抗率を70万気圧まで測定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本課題2年目である2020年度の計画はCOVID-19により大幅な変更を余儀なくされた。 1)放射光XRD実験から単結晶鉄の相転移による多結晶体hcp鉄の組織遺伝様式を理解し、選択配向を評価したhcp鉄の高温高圧下その場電気・熱伝導率測定を行う計画では放射光施設での実験スケジュールが変更となり、予定したほどの実験回数をこなすことが出来なかった。しかしながら、単結晶鉄出発物質の前処理方法などを確立し、これまでに得られた成果をまとめた論文の投稿は出来た。高温高圧その場条件下でのhcp鉄の熱伝導率測定についても、実験を行う研究所の来所が困難な時期があり、予定どおりの計画とはならなかった。 2)SIMSを用いた鉄同位体比測定による、hcp鉄の高温高圧下自己拡散係数決定では、目的とする実験に最適な条件を見出し、40万気圧、2000ケルビンでの鉄の自己拡散実験と、その試料の同位体比分析に成功した。 3)サファイアカプセル封入法による鉄の溶融状態での伝導度測定:溶融鉄の粘性は極めて低いため、溶融による試料形状の変化が高圧高温下での溶融鉄合金の電気抵抗率測定を妨げていた。本課題では、試料を硬いサファイアで覆うことで溶融による形状の変化を抑えることを試みた。昨年度までに70万気圧までの溶融鉄の電気抵抗率測定に成功していたが、更に高圧での実験に難航し、地球中心核条件での実験の成功には至っていない。ここでもCOVID-19による実験回数制限の影響がある。そのため、本課題2年目の進捗はやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度も次の3テーマに幅広く取り組む。1)放射光XRD実験を利用し組織評価したhcp鉄の地球コア条件下での電気・熱伝導率測定、2)昨年度までに確立した手法を用いたhcp鉄の高温高圧下自己拡散係数データの蒐集、3)サファイアカプセル封入法による溶融鉄の地球コア条件下での伝導度測定とそれに代わる代替案の検討。確立した手法を利用し、コアの主成分である純鉄に対する実験を5名の研究者によって同時並行で行っていく。これによって、コアの主成分の輸送特性に対する理解が深まると期待出来る。 COVID-19の感染拡大により実験室、放射光施設での実験が出来ない状況が一定期間生じる可能性が高い。その期間においては、これまでに得られたデータをもれなく解析し、手法開発的な側面が強い成果については投稿論文の執筆を進める。実験停止期間解除後速やかに実験が再開出来るように、今年度の実験の遂行に必要な物品、消耗品に対する経費執行は早めに行う。
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