熊本地震時における震源断層の摩擦熱定量評価と特異な温度構造の解明

2020 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 19H00717
• 研究機関: 京都大学
• 研究代表者: 林 為人 (リンウェイレン) 京都大学, 工学研究科, 教授 (80371714)
• 研究分担者: 山本 由弦 神戸大学, 理学研究科, 教授 (10435753) ; 木下 正高 東京大学, 地震研究所, 教授 (50225009)
• 研究期間 (年度): 2019-04-01 – 2024-03-31
• キーワード: 布田川断層 / 熱物性 / 応力状態

研究実績の概要

熊本地震本震の震源断層である布田川断層を貫く、最大深度700mの鉛直調査孔（FDB）が阿蘇火山地域に位置する益城町で掘削された。本研究は、FDB孔を利用して布田川断層の地震時動的すべりの摩擦熱による温度分布の異常を正確に検出し、地震時の断層すべり特性である動的摩擦係数の決定を主目的としている。この目的を達成するために、掘削孔内の温度を高精度で約3年間継続的に測定する計画である。令和2年度には、前年度に引き続き、①FDB孔内に複数の高精度温度センサーを低い定速度で降下・上昇させながら温度の連続プロファイルの計測を定期的に計3回繰り返し実施したほか、②温度異常の可能性がある深度や温度プロファイルの変曲点など、重要な深度に温度センサーを15個以上設置して、連続経時変化の定点観測を行った。新型コロナウィルスの感染拡大の影響により、掘削孔内の地下水流動の有無を検知するために必要な、特注の加熱型孔内流向流速測定器の納品が遅れてしまったため、この原位置計測を令和3年度の上期に繰り越して実施した。
地下深部の高い圧力条件を再現して熱伝導率の測定手法を確立するために、南海トラフの海洋掘削から採取された岩石試料を用いて、高圧下における熱伝導率と資料の間隙率の変化の測定に成功し、熱伝導率と有効間隙率の経験式を得ることができた。この成果を取りまとめ、有力な国際学術雑誌に論文を掲載することができた。また、断層の摩擦発熱影響を及ぼす応力の状態を決めるために、当該FDB掘削孔から採取した、計20個の岩石コア試料に非弾性ひずみ回復法を適用し、そのうち6試料での原位置応力測定に成功した。この成果を取りまとめ、『非弾性ひずみ回復法を用いた熊本地震震源域における深度700mまでの地震後応力状態の測定』と題する論文を学術誌「応用地質」に投稿して、採択された。

現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

当初計画の通り、FDB掘削孔における孔内温度の深度プロファイルならびに重要深度での定点温度経時変化観測はおおむね順調に進捗しているほか、岩石コア試料を用いた熱物性測定も予定のペースで進んでいる。掘削孔内の地下水流動の有無を検知するための原位置計測はコロナ感染拡大の影響により遅延したが、令和3年度の上期に繰り越して実施することができた。

今後の研究の推進方策

当初予定の通り、次年度もFDB掘削孔における孔内温度の深度プロファイルならびに重要深度での定点温度経時変化観測を続けるとともに、岩石コア試料を用いた熱物性測定の残りを完了させる予定である。また、FDB掘削孔内における地質構造の解析と検討、更に地下水の流動特性を左右する有効間隙率分布についても、研究する予定である。それらに加えて、次年度も積極的に国内・国際の学会で研究発表を行うと共に、投稿論文の採択と出版を目指す。

研究成果

• [国際共同研究] University of California, Santa Cruz(米国)
  • 国名: 米国
  • 外国機関名: University of California, Santa Cruz
• [国際共同研究] Chinese Academy of Sciences(中国)
  • 国名: 中国
  • 外国機関名: Chinese Academy of Sciences
• [国際共同研究] National Taiwan Normal University(その他の国・地域)
  • 国名: その他の国・地域
  • 外国機関名: National Taiwan Normal University
• [国際共同研究] Victoria University of Wellington(ニュージーランド)
  • 国名: ニュージーランド
  • 外国機関名: Victoria University of Wellington
• [雑誌論文] Thermal Conductivity Profile in the Nankai Accretionary Prism at IODP NanTroSEIZE Site C0002: Estimations From High‐Pressure Experiments Using Input Site Sediments (2020)
  • 著者名/発表者名: Lin Weiren、Hirose Takehiro、Tadai Osamu、Tanikawa Wataru、Ishitsuka Kazuya、Yang Xiaoqiu
  • 雑誌名: Geochemistry, Geophysics, Geosystems 巻: 21 ページ: e2020GC009108
  • DOI: 10.1029/2020GC009108
  • 査読あり / 国際共著
• [雑誌論文] The State of Stress on the Fault Before, During, and After a Major Earthquake (2020)
  • 著者名/発表者名: Brodsky, E., Mori, J., Anderson, L., Behrmann, J., Bose, S., Chester, F., Conin, M., Cook, B., Eguchi, N., Fulton, P., Hino, R., Hirose, T., Ikari, M., Ishikmawa, T., Jeppson, T., Kano, Y., Kirkpatrick, J., Kodaira, S., Lin, W., Maeda, L., Mishima, T., Moore, C., Nakamura, Y., Rabinowicz, H., Regalla, C. et al.
  • 雑誌名: Annual Review of Earth and Planetary Sciences 巻: 48 ページ: 49～74
  • DOI: 10.1146/annurev-earth-053018-060507
  • 査読あり / 国際共著
• [雑誌論文] Seasonal and transient surface displacements in the Kumamoto area, Japan, associated with the 2016 Kumamoto earthquake: implications for seismic-induced groundwater level change (2020)
  • 著者名/発表者名: Ishitsuka Kazuya、Tsuji Takeshi、Lin Weiren、Kagabu Makoto、Shimada Jun
  • 雑誌名: Earth, Planets and Space 巻: 72 ページ: -
  • DOI: 10.1186/s40623-020-01275-2
  • 査読あり / オープンアクセス
• [雑誌論文] A Method for Core Reorientation Based on Rock Remanent Magnetization: Application to Hemipelagic Sedimentary Soft Rock (2020)
  • 著者名/発表者名: Sugimoto Tatsuhiro、Yamamoto Yuhji、Yamamoto Yuzuru、Lin Weiren
  • 雑誌名: MATERIALS TRANSACTIONS 巻: 61 ページ: 1638～1644
  • DOI: 10.2320/matertrans.Z-M2020832
  • 査読あり / オープンアクセス
• [雑誌論文] Analysis on the mechanisms of coseismic temperature negative anomaly in fault zones (2020)
  • 著者名/発表者名: Yang X., Lin, W., Yeh E-C., Xu, H., Xu, Z.
  • 雑誌名: Chinese Journal of Geophysics 巻: 63 ページ: 1422-1430
  • DOI: 10.6038/cjg2020M0638
  • 査読あり / 国際共著
• [雑誌論文] Thermal properties of the hanging wall of the central Alpine Fault, New Zealand (2020)
  • 著者名/発表者名: Janku-Capova Lucie、Sutherland Rupert、Townend John、Lin Weiren
  • 雑誌名: New Zealand Journal of Geology and Geophysics 巻: 64 ページ: 530～541
  • DOI: 10.1080/00288306.2020.1828939
  • 査読あり / 国際共著
• [学会発表] 海洋掘削による新第三紀堆積軟岩試料の三軸圧縮強度 (2021)
  • 著者名/発表者名: 林 為人・中村 敏明・村田 澄彦
  • 学会等名: 第15回岩の力学国内シンポジウム講演集
• [学会発表] 活断層を貫通したボーリング孔における物理検層データおよびそれによる間隙率の推定 (2021)
  • 著者名/発表者名: 澁谷 奨, 林 為人, 佐野 暉, 藤井元宏, 佐渡耕一郎
  • 学会等名: 第15回岩の力学国内シンポジウム講演集
• [学会発表] ホットディスク法による異なる岩種の熱物性の相違に関する研究 (2021)
  • 著者名/発表者名: 佐野 暉, 林 為人, 村田 澄彦, 澁谷 奨
  • 学会等名: 第15回岩の力学国内シンポジウム講演集
• [学会発表] 火山地域の掘削コア試料の室内比抵抗測定とその影響要因に関する考察 (2021)
  • 著者名/発表者名: 藤井元宏，林 為人，石塚師也，村田澄彦，澁谷 奨
  • 学会等名: 第15回岩の力学国内シンポジウム講演集
• [学会発表] Thermal conductivity under high-pressure conditions of core samples from IODP NanTroSEIZE input site C0012 (2020)
  • 著者名/発表者名: Lin, W., Tadai, O., Hirose, T., Tanikawa, W., Yang, X.
  • 学会等名: JpGU-AGU Joint Meeting 2020
  • 国際学会
• [学会発表] Resistivity characteristics of various core samples from Aso volcano and its discussion (2020)
  • 著者名/発表者名: Fujii, M., Lin, W., Ishitsuka, K., and Shibutani, S.
  • 学会等名: JpGU-AGU Joint Meeting 2020
  • 国際学会
• [学会発表] 布田川断層を貫通した深部ボーリングFDB孔における地下水変動の観測 (2020)
  • 著者名/発表者名: 澁谷 奨, 林 為人, 杉本達洋, 佐渡耕一郎, 神谷奈々
  • 学会等名: 令和2年度日本応用地質学会研究発表会