研究課題
カルデラ火山は,大陸地殻を持つ火山帯に普遍的に存在し,大量の大規模珪長質マグマを生産・噴出し,広範囲に壊滅的な被害をもたらすこともある.加えて,地球科学の基本問題である大陸地殻の形成と進化に直接関わっており重要な研究対象である.2020年度でも引き続き,九州の阿蘇,姶良,鬼界の3つのカルデラ火山のマグマ発生に関わる岩石学的,地球化学的な火山噴出物の研究を行うとともに,それらの研究により得られたデータから噴火現象に関わる火山学的な検討も行った.阿蘇火山では,噴出物斑晶中のメルトインクルージョンの分析を主として行い,その結果,阿蘇の主要マグマとは化学的性質が大きく異なる2種類のマグマが見つかった.このマグマは,マグマから初期晶出する斑晶中にメルトインクルージョンとして含まれていなものであり,産状より考えて,マグマ発生領域で熱源となったマントル起源のマグマである可能性がある.姶良火山では,10万年間のマグマ供給系の進化を明らかにするため,野外調査によりその期間全体にわたる噴出史を明らかにし,噴出部試料の採取を行った.さらに,岩石学及び地球化学的分析を行い,その結果,3万年前の大規模噴火以前では,基本的にマグマ供給系の変化が見られないことを明らかにした.また,3万年以降にマグマ供給系の条件が大きく変化したことを示唆する予察的結果を得た.鬼界火山では,7300年前の大規模噴火の海底化の火砕流分布を岩石学的研究と地震学的研究から明らかにし,この火砕流の精密な海底における分布を求めた.また,少なくとも最近2回の大規模噴火において,マグマの岩石学的性質が異なることが明らかになった.また,3つのカルデラ火山のマグマ生成メカニズムの共通点として,マントル由来のマグマが熱源となり,下部地殻の溶融により大量の珪長質マグマが生成しているとする昨年度の知見が,新たなデータによりさらに補強された.
3: やや遅れている
阿蘇火山研究については,メルトインクルージョンの分析とその結果の解析に関して,EPMAの分析は順調に進めた.その一方で,2021年度にLA-ICPMSを用いた微量元素分析を行う計画であったが,COVID-19の感染状況が悪く,他の分析機関の出張や受け入れが制限され,十分にできなかった.姶良火山研究については,計画通りのことがおおむね達成され,研究は順調に進められている.現在,国際誌への論文投稿に向けて,データの解析を進めている.鬼界火山研究については,これまでデータの乏しかった,直近の大規模噴火の前の大規模噴火におけるデータの収集を進めることができた.その一方で,現状において噴出物試料が不足していたため,薩摩硫黄島および竹島での野外調査により,噴出物試料の採取を行う必要があったが,離島であることもあり,COVID-19の状況で計画した調査が十分に遂行できなかった.
阿蘇火山研究においては,Aso-2,Aso-3,Aso-4の3つの本年度に十分にできなかったメルトインクルージョンのLA-ICPMSによる微量元素組成分析を行い,マントル及び地殻の岩石学的,地球化学的条件を明らかにする.これにより,マグマ発生場の存在鉱物を明らかにし圧力の推定を行い,また岩石学的に推定された水量のクロスチェックを行う.姶良火山においては,これまで得たデータをもとに,マグマ発生領域の下部地殻岩石の構成鉱物などの詳細な岩石学的情報を明らかにし,その部分溶融が生成するマグマの化学的性質と整合的かどうかを検討する.鬼界火山研究においては,少し遅れている12万年前と9.5万年前の大規模噴火の岩石学的な検討を行う.そのために,薩摩硫黄島と竹島において追加の地質調査と岩石試料採取を行う.また,竹島近海の海底コア試料が得られているため,化学分析結果をもとに,陸上の大規模噴火堆積物との対比を行い,海底堆積物の産状を陸上のものと比較し,大規模火砕流の海底における堆積機構も加えて検討する. また,カルデラ火山の噴出物中のジルコンの年代測定を行い,地殻内のマグマの発生から噴出までの冷却および周辺地殻の同化過程に関する検討を行う.以上の検討をもとに,カルデラ火山におけるマグマ供給系の詳細な過程の考察を進めていく.
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (6件)
Scientific Reports
巻: 10 ページ: -
10.1038/s41598-020-72173-6