研究分担者 |
玄田 英典 東京工業大学, 地球生命研究所, 准教授 (90456260)
新原 隆史 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (20733679)
鹿山 雅裕 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (30634068)
小池 みずほ 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 宇宙科学研究所, 特別研究員(PD) (60836154)
三河内 岳 東京大学, 総合研究博物館, 教授 (30272462)
佐野 有司 東京大学, 大気海洋研究所, 教授 (50162524)
松井 孝典 千葉工業大学, 惑星探査研究センター, 所長 (80114643)
|
研究実績の概要 |
本研究では隕石に刻まれた初期太陽系の痕跡を読み解くための新しい「辞書」の構築を目指している. 近年, 我々の研究グループは数値衝突計算によって70年代から現在に至るまで「Stoffler table」用いられてきた「辞書」が誤訳を与え得ることを示した. これは小惑星同士の衝突程度の低速度衝突において, 破砕された岩石の塑性変形に起因する加熱を無視してきたことによる. 2019年度は数値計算で見いだされた塑性変形加熱が実際に天然試料で起こることを実験的に示すことを目指した. 6500万年前の恐竜絶滅を引き起こした天体衝突の衝突地点の基盤岩であったため, その衝撃応答についてのデータが豊富な炭酸塩岩に注目した. 炭酸塩岩に高速度衝突を起こした際に発生するCO2量データに着目し, 塑性変形加熱を発見したものと同じ数値衝突計算コードで衝突実験を再現計算した. そして数値計算で得られた試料の衝撃加熱度からCO2の発生量を計算した. その結果, 塑性変形加熱の効果を入れた場合にのみ, 先行研究の実験データを再現できることを見出した. また, 静的圧縮試験で得られた炭酸塩岩の臨界応力(0.65 GPa)と比較して大きい値(1 GPa)を用いた場合に実験結果を再現できることもわかった. この結果は天然試料中でも塑性変形加熱が起こること, 動的破壊の場合はその効果がより顕著であることを示唆するものである. 火星由来隕石中の衝撃変成についての進展もあった. 火星隕石中の衝撃変成斜長石ガラス(マスケリナイト)に注目して, 加熱(800-1000度)による斜長石の再結晶化度合いの検証を行った. その結果, より強い衝撃変成を経験したとされる火星隕石で, 斜長石再結晶がより容易に起こることが観察された. これは, 火星での大規模衝撃変成時における残留熱の影響が寄与していると考えられる.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2019年度の主要な成果である炭酸塩岩を用いた塑性変形加熱の実証と平行して実際の隕石を用いた3次元衝撃回収実験の準備を開始した, 試料の初期温度を変化させ, 衝撃加熱度を系統的に調べるための温調機能付き試料加熱ヒータの納品, 動作確認が完了した. また実験に供するための衝撃変成隕石の加工, 実際のショットによる回収試験を実施し, 実験手順を確立することができた. これにより実際の衝撃組織がどのようなものになるか?を調べることが可能になり, 衝撃変成隕石との直接比較が可能になる. Stoffler tableは関連研究分野で長年使用されてきた指標である. そのためその改訂には質の高いデータを蓄積し, 学会発表, 論文発表を通じて根気強く浸透させていく必要があると予測される. この研究にメインに取り組む博士研究員の公募を行い, 1名を採用した. 当初の予定では秋頃の雇用を予定したが, 人材の選定に難航し, 2020年度4月の着任となったため(3)やや遅れているの区分とした.
|
今後の研究の推進方策 |
現時点では新型コロナウイルスの流行に伴い, 研究の進行が鈍化しているが, テレビ会議による研究議論を導入しつつ, 実験や分析は必要最小人数で実施すべく調整を行う. 今年度は地球の玄武岩試料, 普通隕石といった揮発性成分を含まない比較的単純な系で系統的に衝撃圧力, 初期温度を変化させた実験を実施(黒澤, 新原, 新PD, 松井)する. 回収試料は研究分担者に配分し, 偏光顕微鏡観察, 電子顕微鏡観察, 電子線マイクロアナライザ分析, カソードルミネッセンス分析, Nano-SIMSによる局所分析などを実施(新PD, 新原, 鹿山, 小池, 三河内, 佐野)する.また2020年末に地球に帰還するはやぶさ2がもたらすC型小惑星リュウグウからの回収試料への適用も目指し, 揮発性成分を多く含む実験試料を扱う実験手順の確立を行う(黒澤, 新PD, 松井). 平行して, 衝撃変成隕石を積極的に購入し, 衝撃変成組織の記載, Nano-SIMSによる元素拡散距離分析を実施し, 衝撃変成度の再評価を実施する(三河内, 新原, 鹿山, 小池, 佐野, 新PD). 3次元衝撃回収実験の実験後の試料も同様の方法で分析し, その一致度, 不一致度を評価する. 研究成果は論文としての公表, 及び関連学会, 研究会での発表を通じて関連分野へ宣伝すると共にコミュニティからのコメントを取り入れて研究を遂行する.
|