研究課題/領域番号 |
19H00742
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研究機関 | 京都工芸繊維大学 |
研究代表者 |
森脇 一郎 京都工芸繊維大学, 機械工学系, 教授 (20157936)
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研究分担者 |
射場 大輔 京都工芸繊維大学, 機械工学系, 教授 (10402984)
飯塚 高志 京都工芸繊維大学, 機械工学系, 准教授 (60335312)
三浦 奈々子 京都工芸繊維大学, 機械工学系, 助教 (80735340)
増田 新 京都工芸繊維大学, 機械工学系, 教授 (90252543)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 損傷検知 / スマートギヤ / 導電性インク / 印刷センサ / 樹脂歯車 |
研究実績の概要 |
本研究は,歯車の稼働状態を in-situ(本来の場所)で測定できる「スマートギアシステム」の開発を目的としている.スマートギヤとは導電性インクで印刷されたセンサ回路とアンテナ機能が歯車表面に実装され,センサから得られたひずみや振動などの情報を高速運転中に外部の受信システムによって非接触でのモニタリングを可能とするものである.機械装置が,自らの完全性を高精度に自覚し,自身を構成する要素の損傷や劣化を予見する生物的な能力を持つことができれば,機械装置の可用性を高度に保ちつつ,保全を効率的に行うことが可能となる.その具現化を目指す研究である. 前年度までに,モジュールが 1.0mm で歯数が 48 の歯車に対してき裂検知センサとオープンスパイラルアンテナを組み合わせた歯車に印刷するシステムの開発を行い,観測用アンテナとネットワークアナライザによって構成された観測用システムと磁界結合させ,ワイヤレスで歯車側センサの状態がモニタリング可能なシステム構築を進めてきた.本年度は,開発中のスマートギヤシステムで計測した周波数応答(リターンロス)からシステムの複数のパラメータを最急降下法によって同定する手法の開発に取り組み,歯車側のセンサ・アンテナに関連したパラメータを非接触で把握する技術の開発を目指した.しかし,同定結果が初期値に依存して局所的最適解へと収束する事例があったことから,遺伝的アルゴリズムによって同定する手法も開発し,大域的最適解を探索できるように修正を行なった.また,これまではアンテナへの影響を考慮して樹脂歯車を対象にシステムの開発を行なってきたが,金属歯車への応用を目指した基礎検討も始めた.具体的には2枚の鉄板へ同じアンテナを印刷し,それらのアンテナ対で磁界結合を発生させるための条件を探索することで,樹脂に印刷したシステムと同様のリターンロスを得られることを示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和 2 年度には,(i) 歯車が負荷を受けた時のセンサ・アンテナ回路の周波数特性を外部のアンテナに接続したネットワークアナライザで計測・評価する,(ii) 歯の形状の変化を捉えるために,歯の側面に三角形要素でメッシュ分割した蜘蛛の巣型のWebセンサを開発する,の2点を課題として挙げていた. 1番目の課題については,前年度にき裂検知センサ部の抵抗のみを未知量としてパラメータ同定する手法を開発していたが,システムを2自由度の電気回路でモデル化した場合,その周波数特性(リターンロス)にはパラメータが7つ含まれており,従来のパラメータ同定は正確な結果とは言えなかった.そのため,同定結果を用いて再現した周波数特性は実験結果と大きな乖離があった.そこで,最急降下法を用いて複数の未知パラメータを同定する手法の開発を行なった.開発した手法は初期値依存で局所最適解に収束する事例を確認したことから,遺伝的アルゴリズムを用いたパラメータ同定手法の開発も行ない,2自由度でモデル化したシステムの周波数特性が実験で得られた結果を十分な精度で再現可能な結果が得られた. また,2番目の課題については,モジュール 1 mm の歯車の一歯に細かなメッシュ上のパターンを形成するためには 10 μm 程度の線幅を有する電気回路を印刷する技術が必要となるため,半導体や MEMS を製作する際に用いられる露光装置を利用した導電性インクの印刷技術開発に取り組んだが,新型コロナ感染拡大の影響で研究が適切に進められなかった時期もあり,センサの製作を完了させることはできなかった. 一方で,金属歯車上でシステムを具現化する第一歩として,鉄板上に印刷したアンテナ対の磁界結合を発生させるための基礎研究を進めることができたことは,当初の予定には計画されておらず,計画以上の進捗となった.
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今後の研究の推進方策 |
申請者らは,複雑な形状を有する歯車表面へ導電性インクを焼結するため 4 軸レーザー印刷機を開発してきた.そして,樹脂歯車にき裂検知センサとオープンスパイラルアンテナを印刷してスマートギヤを製作し,ポリアセタール板に印刷した観測用オープンスパイラルを接近させて磁界結合させることで,観測用アンテナの周波数特性からスマートギヤの状態が観測できることを確認してきた.しかしながら,樹脂歯車の運転試験中に開発したシステムを用いて歯車の状態を観測しようとしたところ,想定以上に観測用アンテナの周波数特性が変化する結果が得られた.同時に,運転中の歯車の温度を測定したところ,室温から 20 ~ 30 ℃ の温度上昇が観測されており,運転中の負荷によるセンサへの影響と,温度上昇によるセンサへの影響が同時に観測されており,それらの結果を分離できていないことが確認された. そこで今後は,まず,スマートギヤを加熱し,温度上昇が観測アンテナのリターンロス特性に与える影響を明らかにすることで,歯車への負荷がリターンロスに与える影響との分離を試み,温度補償が可能なスマートギヤを開発する.また,蜘蛛の巣形状を歯の側面に印刷する Web 型センサの開発を継続して行い,き裂検知センサよりも歯の形状変化に対して感度の高いセンサを製作する.さらに,導電性インク層,ポリイミド層,圧電インク層を積層する技術を開発し,それら積層技術を利用して運転中の歯車の振動を計測可能とする加速度センサの開発にも挑む.並行してこれまで樹脂歯車上で実現したスマートギヤシステムを鋼歯車上に印刷し,より高負荷で運転される歯車の非接触モニタリングを可能とするシステム開発を行なっていく.
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