研究課題/領域番号 |
19H00749
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研究機関 | 名城大学 |
研究代表者 |
金子 真 名城大学, 理工学部, 教授 (70224607)
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研究分担者 |
坂田 泰史 大阪大学, 医学系研究科, 教授 (00397671)
伊藤 弘明 千葉大学, 大学院理学研究院, 助教 (10783186)
大谷 朋仁 大阪大学, 医学系研究科, 講師 (30623897)
高山 俊男 東京工業大学, 工学院, 准教授 (80376954)
丸山 央峰 名古屋大学, 工学研究科, 准教授 (60377843)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 赤血球変形能 / ローディング / 回復時定数 / 細胞骨格 / 循環器系疾患 |
研究実績の概要 |
人工毛細血管の狭窄部で単一赤血球を静止させたところ、静止時間3分で狭窄部から解放された赤血球回復時定数は数ミリ秒から数十秒に激変するローディング現象を発見した。本研究はこの現象のメカニズムを解明することを目的としている。2020年度までに行った研究実績で静止時間3分後であっても最初の数ミリ秒で元の赤血球の半分まで回復し、その後数十秒かけて元の大きさの90%まで回復するという二段階回復特性を見出した。2021年度の研究実績は以下の通りである。 (1)ホームページの作成:二段階回復特性を理解し易いように図や写真を盛り込んだホームページを新たに作成した。最初の数ミリ秒で元の赤血球の半分まで回復し、その後数十秒かけて元の大きさの90%まで回復するという二段階回復特性は図3から容易に読み取ることができる。https://www1.meijo-u.ac.jp/~mkaneko/ (2)機械インピーダンスモデル:生物学者からはローディング時間で回復時定数が100倍大きくなるのはローディングにより赤血球膜が傷つき赤血球内部液が外部に漏れ出たのではないかというコメントをいただいた。ところがこの膜損傷モデルには合点がいかない点がある。ローディング中に赤血球内部液が漏れ出れば回復力は弱まり90%回復は期待できない。一方赤血球をホームページ図6のばね2個(k1, k2)、粘性要素2個(C2, C1)の機械インピーダンスモデルを用いると膜損傷モデルに比べ明快に二段階回復特性が説明できた。 (3)新規人工毛細血管による実験:真空プラズマ装置(2021年度購入)を使用して新規人工毛細血管を製作しローディング時間0秒での赤血球変形能実験を行い、想定内の結果を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
狭窄部で単一赤血球を静止させたところ、静止時間3分で狭窄部から解放された赤血球回復時定数は数ミリ秒から数十秒に激変するローディング現象を発見した。本研究はこの現象のメカニズムを解明することを目的としている。この原因を明らかにする上で、きわめて興味深い二段階回復特性を偶然見つけることができた。 一方で生物学者からいただいたコメントはローディング時間で回復時定数が100倍大きくなるのはローディングにより赤血球膜が傷つき赤血球内部液が外に漏れ出る赤血球膜損傷モデルであった。ローディング中に赤血球内部液が漏れ出れば回復力は弱まり、時定数が大きくなることは否めない。ところが生物学者からいただいた赤血球膜損傷モデルには合点がいかない点があった。(1)赤血球膜が傷つき赤血球内部液が外に漏れ出るのであれば回復特性は期待できないはずである。さらに(2)赤血球は酸素を体中の細胞に運搬するという生命維持に重要な役目を担っており、その赤血球膜がわずか3分間のローディングで壊れるようであれば人類が地球上で生存し続けてきたという事実に疑問を覚える。膜損傷モデルが受け入れなれない理由がここにある。2021年度の実績報告で機械インピーダンスモデルを用いることでローディング現象を説明する十分なモデルを示すことができたのは予想しなかった新たな成果である。以上が「概ね順調に進展している」と判断した根拠である。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度研究中に、3分間ローディング後に赤血球を狭窄部から開放した際時間に対して二段階回復特性が見られることを突き止めた。すなわち、最初の数ミリ秒で元の赤血球の半分まで回復し、その後数秒の時間をかけて元の大きさの90%まで回復する。この現象に対して、生物学者からいただいたコメントは赤血球膜損傷モデルであったが、2021年度の研究で機械インピーダンスモデルを使えば赤血球の二段階回復特性を容易に説明できかつ十分なモデルを複数示せる目途がついた。この点を踏まえ2022年度の研究計画は以下の2点を中心に行う。 (1)多層赤血球機械インピーダンスモデルによる順問題:二段階回復特性を実現するモデルとして赤血球を多層機械インピーダンスモデルで表現する方法を模索し、元々の赤血球形状を初期条件とし、例えば第一層に1個の粘性要素、第二層に1個の粘性要素と2個のバネを組み込み、二段階回復特性が実現可能かどうかについて順問題として吟味する。なお順問題とは機械インピーダンスを与え赤血球の振る舞いを調べる問題である。 (2)多層赤血球機械インピーダンスモデルによる逆問題:二段階回復特性を与えて赤血球多層機械インピーダンスモデルを推定する逆問題について模索する。例えば赤血球の塑性変形10%、回復率90%等を与えて二層機械インピーダンスモデルのバネ、粘性要素の許容範囲を同定する。
最終的には、伊藤弘明(研究分担者)、高山俊男(研究分担者)、金子真(研究代表者)らがまとめる実験結果と解析結果に対して坂田泰史(研究分担者)、大谷朋仁(研究分担者)が医学的見地から評価を行い、金子真(研究代表者)が総括を行う。なお、新しい知見が得られた時点で適宜学会発表を行う。
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備考 |
http://www1.meijo-u.ac.jp/~mkaneko/で研究紹介(-科研基盤研究A:赤血球回復時定数100倍激変現象の解明を軸に-)に入ると二段階回復特性(図3)及び機械インピーダンスモデルがバネや粘性要素で構成されたモデルであることが理解できる(図6)。
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