研究課題/領域番号 |
19H00756
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
内田 建 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (30446900)
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研究分担者 |
近藤 寛 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (80302800)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 金属ナノシート / オペランド分光 / ガスセンサ / ジュール熱 / 触媒 |
研究実績の概要 |
本研究課題では,気相中に漂う低分子ガスの分子種と濃度を,超長期にわたり低エネルギーで認識するセンサを合金ナノシートで創出することを目的としている.合金ナノシートの材料探索に加え,ジュール加熱による吸着脱離と化学反応の制御で分子認識能を獲得すること,オペランド分光により合金表面での触媒反応と,合金ナノシートの電気抵抗の関係を学術的に理解することを目指している. 本年度は,合金ナノシートに本格的に取りかかる前段階として,(1) Auナノシートにアルカンチオールを修飾することによるAuナノシート抵抗変化の観察と,(2) Ptナノシート水素センサのオペランド準大気圧XPS測定を実施した.その結果,分子吸着による抵抗増大効果には温度依存性があること,Ptナノシート表面の還元によって抵抗が低下することをオペランド計測で確認したこと,などの進展があった. Auナノシートは大気中の多くの分子とは化学結合せず,表面が極めて安定であるため長期間抵抗値が変動しない.その一方で,硫黄と化学結合するためチオール類で表面を修飾することも可能である.本年度は,アルカンチオールを溶解した溶媒に,電極付きAuナノシートを浸漬することで,自己組織化単分子膜(Self-Assembled Monolayer: SAM)の形成に伴うAuナノシートの抵抗変化を観察し,Au-S結合が抵抗に影響を及ぼすことを確認した.また,SAM修飾Auナノシート抵抗の温度依存性を測定することで,吸着分子(化学結合した分子)が金属ナノシートの抵抗に及ぼす影響の温度依存性を観測することに成功した. Ptナノシートセンサのオペランド計測では,準大気圧XPSを用いて水素ガス雰囲気中で動作中のPtガスセンサをオペランド測定した.抵抗値と化学状態の変化から,水素によるPt酸化物の還元がセンサ動作に関係することを実験的に明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
金属ナノシートによるセンサの出力(抵抗変化)と表面状態に相関があることをオペランド分光によって確認した.また,金を標準試料として採用し,移動度,キャリア密度などのパラメータの抽出とその温度依存性を評価する手法と表面を安定に修飾する方法を確立した.これらの技術を用いて,表面で化学結合をした分子が,金属ナノシートの抵抗値に及ぼす影響の温度依存性を取得することに成功した.このような温度依存性のデータは従来に無く,次年度以降に,吸着分子が金属ナノシート抵抗に及ぼす影響の理解を深耕する上での基礎的データになる成果である.さらに,2年目以降に主として進める合金ナノシートの作製・評価にもすでに着手していることから,本研究課題はおおむね順調に進展していると考える.
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今後の研究の推進方策 |
Auナノシートでは,(1) アルカンチオールの表面被覆率の計測,(2) Au-S結合がナノシート抵抗に及ぼす影響の定量化,(3) 硫化水素センサとしての潜在能力の評価, (4) ジュール加熱による硫化物のAuナノシートからの脱離実証,が今後推進すべき項目である.(1)については,水晶マイクロバランス法とXPSを併用し,参照試料としてマイカ上の単結晶Au薄膜を利用することで信頼性のあるデータの獲得を目指す.(2)については,第一原理計算を利用した散乱確率の計算とモンテカルロ法を組み合わせることで定量的モデルの構築を目指す,(3)については,夾雑物(水,水素,アルコール,一酸化炭素,窒素酸化物)に対する感度を計測することで,硫化物に対する選択性を見極める.(4)については,すでに予備実験を行っており,昇温によって,密着層とセンサ材料の合金化,表面形状の変化などの課題あることが分かってきた.これらの問題に対する解決策を考え,ジュール加熱による硫化物の脱離(センサ特性の回復)を2020年度には実証する予定. 合金ナノシートについては,2020年度はPt-RhとPt-Irについて調べることを計画している.Pt-Rh合金ナノシートについては実験を開始しており,Ptナノシートセンサとの性能差が観察されている.具体的には,Pt-Rh合金ナノシートはPtナノシートと比べた時に,アンモニアに対する感度が低く,水素に対する感度には大きな差が無い.現状,この差が生じる物理的・化学的原因が不明である.今後オペランド分光により明らかにしていく.また,2020年度には,Pt-Ir合金ナノシートにも着手し,メタン検知の可能性を探究する.呼気ガスから腸内細菌叢に対する情報を得るためには,既に開発済みの水素センサに加えてメタンセンサにも高い需要がある.本課題終了時までにメタンセンサの開発も目指す.
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