研究課題/領域番号 |
19H00770
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
横山 士吉 九州大学, 先導物質化学研究所, 教授 (00359100)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 電気光学 / 光変調器 / ポリマー / 進行波型電極 / 光信号伝送 / 多値変調 |
研究実績の概要 |
電気光学ポリマーを用いた変調器は、導波路を伝搬する光波とマイクロ波の速度整合性が高いことから高周波数の光信号伝送が期待できる。本研究の目的は、電気光学ポリマーを応用したハイブリッド変調器の広帯域化を進め、超高速の光信号伝送を実現することである。研究項目「広帯域ハイブリット変調器の作製」では、シリコン導波路を応用したハイブリッド変調器の作製を進め、進行波型電極の最適化の結果、変調帯域70GHzに到達することができた。実在する光変調器としては最高レベルの帯域特性を得ることができたが、理論的に推定される帯域が102GHzであることから、さらに改良の余地はある。さらなる帯域拡大を実現するためには、電極を介して入力されるRF信号の損失をさらに低減させるか、ハイブリッド変調器の電気光学効率を高めることで位相長を短くし、RF伝搬損失の影響を抑えるなどの方策が考えられる。 研究項目「高速光伝送の実証実験」では、100Gb/s OOK(on-off-keying)の高精度化を検討してきた。上記の通り、作製したハイブリッド変調器は70GHzの帯域を実現したことから、100Gb/s OOKの信号生成を確認することができた。信号精度の定量的な評価は、計測したアイパターンのQ値、消光比、および動作電圧特性を指標として行い、これまでに報告例がある無機系光変調器の特性を上回る結果となった。さらにハイブリッド変調器の優れた特性を引き出すため、実用的な光ファイバー伝送実験の検討も行った。本研究の光変調器は、データセンターなど情報処理機能が集中した短距離通信網(2km以内)で活用可能なデバイスとしても期待できる。実際に光ファイバー伝送(2.0km)のビットエラー評価実験を行った結果、100Gbit/s OOKでエラーフリーの信号伝送を確認することができ、デバイス性能の高い有用性を示すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の研究計画と目標は、電気光学ポリマー光変調器の潜在性を引き出し、帯域100GHzの高周波応答性と100Gbit/sの高信号伝送を実現することである。これらの目標に対して、今年度、計測技術の上限となる帯域70GHzを実測し、100Gb/s OOKの優れた光ファイバー伝送を確認した。今後の課題解決に向けて、帯域100GHz実証の方策の検討も進み、目標達成の可能性は高いと判断できる。また、高速信号伝送(100Gb/s OOK)では、Q値やビットエラーレートの評価から、その信号精度も高いことが確認できている。本年度は、さらに信号レートを上げるため多値変調方式(PAM4)による変調器動作を試みた。その結果、200Gbit/s PAM4信号の生成も確認することができた。このような高速伝送は、光通信デバイス分野における最先端領域であり、世界的に見ても限られたデバイス技術でしか実現できていない。以上の広帯域・高速光信号伝送を実現するハイブリッド変調器の結果は、インパクトの高い成果発信につなげることができた。
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今後の研究の推進方策 |
目標とする光変調の広帯域化では、進行波型電極のRF損失のさらなる低減に向けた改良の余地がある。さらにRF信号の入出力損失を低減することができれば、動作電圧の低減にもつなげることができる。特に光変調器の低電圧動作は、デバイス消費電力の観点からも意義が高い、すなわち実用的なシステム内のドライバーアンプに関わる消費電力の低減につなげることも不可能ではない。100GHzの帯域評価は、直接の帯域計測が可能な測定限界に到達していることから、サイドバンド法による評価を行う(当初計画通り)。また、ハイブリッド変調器の位相長を短くすることも、高周波駆動には有利である。光変調器の位相長と変調度はトレードオフの関係があることから、ハイブリッド変調器の変調効率をさらに高める検討を進め、広帯域化の拡大につなげる。
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