研究課題/領域番号 |
19H00773
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研究機関 | 東京都市大学 |
研究代表者 |
小長井 誠 東京都市大学, 付置研究所, 教授 (40111653)
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研究分担者 |
石川 亮佑 東京都市大学, 付置研究所, 准教授 (50637064)
齊藤 公彦 福島大学, 共生システム理工学類, 特任教授 (70704203)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 太陽電池 / アモルファスシリコン / 多接合太陽電池 / 両面受光 / IoT機器用電源 |
研究実績の概要 |
IoT機器に用いられるセンサーなどの自立電源として、動作電圧3以上の高電圧・両面受光5接合シリコン薄膜太陽電池を開発することを目的に3項目のサブテーマを実施し、以下の成果を得た。 (1)高電圧・両面受光 5 接合、6接合 Si 薄膜太陽電池:5接合太陽電池はプラズマCVD装置により形成した。低照度下で高い動作電圧を得るため、①接合の漏れ電流を極力抑制する製膜技術開発、 ②開放電圧を高めるための最適設計、を実施した。その結果、1000 luxの低照度下、3.2Vの開放電圧を得た。さらに6接合太陽電池の試作に挑戦したところ、1000 luxで約4Vという高い開放電圧を得ることができた。また、ポリイミドをコーティングしたガラス基板上に5接合Si薄膜太陽電池を製膜したところ、容易にフレキシブル太陽電池をはぎ取ることができた。 (2)グラフェンを用いた剥ぎ取り・貼り付け技術:2019年度は、ガラス基板上に形成された単層グラフェン薄膜上にシングル接合型アモルファスSi薄膜太陽電池の形成技術開発を行った。研究開発当初、グラフェン上にアモルファスSi太陽電池を形成する際、膜はげなどの課題が発生したが、これらの課題を解決することによって、グラフェン上に均一にアモルファスSi太陽電池を形成することが可能となった。また、初期的ながらアモルファスSi太陽電池の引きはがしに成功した。 (3)光学マネージメント:片面受光したアモルファスシリコン太陽電池の光入射側/裏面側の受光量がほぼ同等となるような、裏面側最適散乱・導光構造、および、アモルファスシリコン素子面内に配備する透明ピラーサイズおよび形状を、2019年度に購入した光学シミュレーター等 により設計する手法を確立した。これにより、次年度の光学部材試作に向けての基板設計が完了した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2019年度は、当初の計画以上に進展した。まず、研究開発当初、2,000lux以下の低照度領域で開放電圧が急激に減少する現象が見られた。それまでは、光閉じ込めのため、凹凸構造を有するSnO2透明導電膜付きガラス基板を用いていたが、この凹凸構造が原因で接合の漏れ電流を招き、太陽電池特性の低照度特性を悪くしていることをつきとめた。そこで、漏れ電流改善のため、平坦は透明導電膜であるITOを用いたところ、大幅に漏れ電流が減少し、100luxでも動作が可能な太陽電池の試作が可能となった。また、今後の多様な応用機器への適用を考え、さらに高電圧での動作を目指して6接合太陽電池の試作を行ったところ、低照度で4Vを超す開放電圧が得られるなど、期待以上の成果が得られた。 一方、今後のフレキシブル化への初期的な検討として、ガラス基板上にポリイミドをコーティングした基板を用いて、この上に5接合太陽電池を形成したところ、透明導電膜/ガラス基板と同様の性能を有する特性を得ることができた。特性を測定後、ガラス基板から、5接合アモルファスSi太陽電池/ポリイミドフィルムをはぎ取る試みを行ったところ、非常に簡単なプロセスで剥ぎ取りに成功した。以上の初期的な結果から、目標としていた高電圧両面受光5接合フレキシブル太陽電池が、当初の計画以上に早く実現できる可能性が高まった。 上記の成果の一部をフランス、マルセイユで開催された第36回EUPVSEC(欧州太陽光発電国際会議)で発表したところ、投稿された約1,000件の論文中、査読結果が上記30位以内にランキングされ、この分野では評価の高いProgress in Photovoltaics誌への投稿を招待されるに至った。この論文は、2019年11月に出版された。
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今後の研究の推進方策 |
低照度下での太陽電池特性は、各光吸収層の欠陥密度やデバイス作製時のピンホールなどの影響を受ける。そこで次年度は、各光吸収層の高品質化とともに積層技術をいっそう最適化し、面積数cm2のセルでも低照度特性に優れた5接合ならびに6接合多接合太陽電池の作製技術を確立する。また従来は、透明導電膜をコートしたガラス基板を用いていたが、2020年度はフレキシブル・ポリイミド基板上に直接、多接合太陽電池を製膜する技術を確立する。製膜法という観点では、これまでは、三室分離型プラズマCVD装置によりアモルファス太陽電池を形成していたが、プラズマCVDチャンバ間の搬送に時間を要している。そこで次年度以降、ドーピングチャンバでi層までを連続製膜する手法を開発する。 2019年度は、グラフェン上の単接合アモルファスシリコン太陽電池形成プロセスを確立することができたため、次年度は引き剥がしプロセスの最適化と、昨年度導入したラミネート装置を用いてフレキシブル化プロセスの開発に取り組む。特に引き剥がしと貼りつけに用いる材料を光学的・電気的・機械的な観点から多角的に検討する必要がある。また、引き剥がしプロセスの改善のため、大面積多層グラフェン膜の成長にも取り組む。これらのプロセス技術を5接合セルに展開する。 2019年度は、片面受光したアモルファスシリコン太陽電池の光入射側/裏面側の受光量がほぼ同等となるような、裏面側最適散乱・導光構造、およびアモルファスシリコン素子面内に配備する透明ピラーサイズおよび形状の設計を行った。次年度は、これらのシミュレーション結果をもとに、片面入射両面受光光学部材の試作を行うとともに、光学特性の評価を行う。これらの評価結果をもとに光学設計の修正・再試作を実施し、2021年度の5接合、6接合太陽電池への適用に向けた基板を作製する。
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