研究課題/領域番号 |
19H00778
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岸 利治 東京大学, 生産技術研究所, 教授 (90251339)
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研究分担者 |
吉田 亮 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (40548575)
鎌田 知久 東京大学, 生産技術研究所, 助教 (70804194)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | Reinforced concrete / Durability / Carbonation / Water / Maintenance |
研究実績の概要 |
実構造物に降り注ぐ雨は、現実には中性の水ではなく酸性雨であることから、酸性雨等の実環境を模擬した室内実験を実施することで、鉄筋コンクリート表層の剥離・剥落事象発生に与える酸性雨の影響について検討するために、かぶり厚さや中性化深さの異なる鉄筋コンクリート供試体を作製して、実環境における降雨による湿潤と乾燥を模擬した乾湿繰り返し条件での室内実験を実施した。酸性雨では、pHが5.0以下となることもあることから、酸性雨を模擬した低pHの水を用いた実験を行った結果、鋼材近傍のコンクリートが全く中性化していない状況では、低pHの水を用いた乾湿繰返しではコンクリート表面からの非破壊試験で検出できるほど顕著なコンクリート中の鋼材腐食は発生しないことを確認した。この結果は当初の想定とは大きく異なっており、単に酸性水を用いた乾湿繰返しだけではでは短期間で明確な鋼材腐食を発生させることができないことが明らかになった。そこで、一部の供試体に対して顕著な促進中性化を施した上で、単なる酸性水に代えて微量成分を含む人工模擬雨水による乾湿繰返し継続実験を追加で実施したところ、人工模擬雨水による乾湿繰返しでも、鋼材近傍のコンクリートが全く中性化していない状況では、少なくとも乾湿繰返し10回程度までにはコンクリート表面からの非破壊試験で検出できるほど顕著なコンクリート中の鋼材腐食は発生しないを確認した。その一方で、鋼材近傍のコンクリートが中性化していると中性水の一度の作用で僅かながらも直ちに明確な腐食反応が検出されることを確認した。このことから、鋼材近傍のコンクリートの中性化は、鋼材腐食の十分条件ではないものの、少なくとも工学的には鋼材腐食の必要条件であると考えるのが妥当であると結論付けた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、酸性雨等の実環境を模擬した室内実験を実施することで、中性化深さの耐久性指標としての不合理性を科学的根拠に基づき立証することを目的の一つとして掲げてきたが、初年度に実施した室内実験における検討の結果、鋼材近傍のコンクリートの中性化は、鋼材腐食の十分条件ではないものの、少なくとも工学的には鋼材腐食の必要条件であると考えるのが妥当であるとの結論に至り、当初の想定とは異なる検討状況となった。一方、当初の想定通り、中性化残りによる限界状態の設定は、耐久設計段階における照査としては一定の合理性を有すると考えられるものの、実構造物を対象とした維持管理段階において、雨水の浸透頻度を考慮せずに中性化深さのみを耐久性指標として採用することは、過度に保守的で経済合理性を欠いた判断を誘導してしまうことから、余寿命予測手法の構築には、鋼材腐食とかぶりコンクリートの剥離・剥落現象を本質的に支配する雨水の浸透頻度を考慮することが重要であることに変わりはない。したがって、初年度に実施した検討の結果、雨水の浸透頻度のみならずに、中性化の進行と雨水の浸透頻度の両者を考慮した鋼材腐食速度評価に基づく余寿命予測手法の構築に向けた検討を進めることが最優先事項となった。このように、当初の想定とは異なる検討状況となったことから、当初の想定からは、やや遅れた状況となったが、現象と機構に対する理解が深まったことから、最終的な目的である余寿命予測手法の構築に向けては着実に前進していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究では、鋼材腐食は中性化残りが僅かとなって鋼材近傍のコンクリート中の粗大空隙が局所的に中性化した後に開始するものと仮定して、そのような状態に中性化の進行が至るまでの期間(許容中性化期間)と、その後に鋼材腐食が開始して鋼材の腐食深さがかぶりコンクリートのはく離を想定して設定された限界値に達するまで期間(許容腐食期間)の合計の期間を耐久性上の部材寿命と捉える耐久性照査手法を構築することを試みる。また、「中性化深さ(中性化残り)の耐久性指標としての不合理性」が著しいのは、設計段階よりも維持管理段階であることを明確に認識した上で、実構造物を対象とした維持管理段階で望まれる剥離寿命推定を可能とする照査体系とそれを支える調査体系についての検討も行う予定である。具体的には、実構造物の調査により、部位ごとのかぶり厚さ・コンクリート品質・中性化深さを把握した上で、乾湿繰返しに関する環境条件の推定を加味した剥離寿命推定手法を構築し、対策の緊急度の観点から、補修対象部位・経過観察部位・対策不要部位の見極めと、適切な補修工法と施工時期の計画策定に資する維持管理初期段階で有効な照査体系を構築する予定である。
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