研究課題
前年度に引き続き、近年豪雨災害に見舞われた山口県周南市島田川、広島県坂町総頭川、呉市および秋田県大仙市、横手市を流れる雄物川の各調査箇所で現地調査を実施した。平地部では、ジオスライサーによって地層を剥ぎ取り、洪水・土石流・土砂洪水氾濫の各堆積物の土層区分を行った上で、各堆積物の層相、厚さ、土粒子の密度、粒度等の測定・分析、光学顕微鏡による観察を行った。また、谷出口付近では、削剥された渓岸露頭に見られた新旧土石流堆積物の組成と構造を調べた。堆積物中に見られた樹木片等の炭化物に対して放射性炭素年代測定(14C)を実施した。取得した年代値は、これまでにデータを蓄積してきた年表に追加するとともに、歴史資料から抽出した既往災害イベントと照合し、その確度を検討した。周南市の調査箇所では、その周辺部の衛星データ、航空LPデータをもとに地形解析および土石流氾濫解析に用いる細密DTMを作成し、それを用いてGIS地形解析を行い、基本的な地形量として標高、傾斜、傾斜方位、収束指数を算出し、それぞれの地形量の変化(ばらつきの程度)等を概略評価した。この他に、土石流シミュレーションにより山口県内の土石流が河川・線路に到達する複合災害発生ポテンシャルの検討を実施した。また、2018年に発生した広島県呉市の土砂災害を対象にALOS-2を用いて山間部の地表の経年変化の検出を試みた。主な結果は以下のとおりである。山口、秋田の調査箇所では過去の洪水で形成された層状の痕跡を地中に認め、その痕跡の一部が災害イベントと時期的に整合する。また、広島沿岸地域の土石流の長期的発生間隔は同一渓流では150~400年程度であり、坂町総頭川においても発生時期は異なるものの、同様の間隔である。山口、広島の一部の遺跡分布と近年の災害発生箇所の位置関係を検討した結果、少なくとも中世以降の集落は土砂災害・洪水のリスクを負う傾向がある。
2: おおむね順調に進展している
今年度は、コロナ禍の諸制約を受けた調査研究となったが、感染防止対策など安全配慮を徹底しながら、山口、広島、秋田の各現場においておおむね計画通りの調査を実施し、データを積み上げた。ただし、宮城県丸森町の土砂洪水氾濫箇所の調査は、残念ながら、調査予定時期が当地のCOVID-19感染拡大状況と重なったため、実施しなかった。研究状況として、山口、広島の花崗岩地帯を対象とした調査研究において、後背地に風化花崗岩を抱える地域の土砂洪水氾濫の状況や履歴に関するデータ、土砂洪水氾濫の発生場の地形的条件に関する知見が蓄積されつつある。また、秋田の調査研究においては、サンプルの鏡下観察により土粒子の由来や堆積環境を推定するための基礎的データを取得することができた。また、地形解析に関しては、衛星リモートセンシングデータから作成したDTM(AW3D高精細版3D地形データ)に基づいて、GISによる解析を調査箇所となる周南市小松原地区の高水敷を含む範囲で試行的に実施し、詳細に解析することで、土砂洪水氾濫のリスク評価シートおよび土砂供給ポテンシャルを推定するプロセスの確立に見通しを得た。遺跡分布と土砂災害危険箇所の検討に関しては、山口、広島の一部の遺跡分布地図を作成し、近年の災害発生箇所との重ね合わせが可能になった。山口県防府市佐波川流域の遺跡分布地図については、ほぼ検討を完了した。広島の遺跡分布地図については、細別時期ごとの地図を作成中である。土石流シミュレーションに関しては、岩国駅から徳山駅間の山陽本線、岩徳線、錦川清流線において複合災害の発生する可能性が高い地点を評価し、各地点の土砂流入防止対策の必要性について検討した。衛星リモートセンシング解析に関しては、2時期のALOS-2データを用い、干渉SAR解析によるコヒーレンス値から地表面変化を検出した。以上より、おおむね順調に進展していると判断した。
各調査箇所でのデータの積み上げを継続実施するとともに、洪水堆積物、土石流堆積物の比較分析から、土砂洪水氾濫堆積物の実相をより詳細に明らかにする。その際、土石流や洪水の履歴はもとより、土砂崩壊履歴との関連性にも着目して検討する。また、花崗岩以外の地質が分布する地域で調査を進め、地質の違いによる土砂洪水氾濫状況や発生場の地形的条件の違いを把握することに努める。さらに、他の調査箇所に対してもGIS解析を行い、土砂洪水氾濫のリスクが高い箇所の地形・地質、土地利用の諸条件を突き止め、リスクを予測するプロセスの妥当性とリスク評価シート作成の検討を進める。また、GIS解析を先行実施した箇所においては、土石流・洪水氾濫解析を行い、計算条件を変えて、到達範囲や堆積厚さの変化を調べるとともに、現地調査結果との比較検討を行う。さらに、複合災害発生の危険性が高い区域の解析範囲を広げると共に、複合災害発生の危険性が高い箇所の特性を明らかにし、効果的な対策案を検討していく。衛星リモートセンシングやUAVによる空撮データからは、広域的な土砂洪水氾濫リスクの把握の可能性を検討する。なお、衛星データに関しては、2時期だけでなく、災害前後の長期間のデータのペアによる干渉SAR解析を実施する。遺跡分布と土砂災害発生箇所の関係については、遺跡情報を精査し、遺跡内における時期ごとの遺構分布から、災害との対応関係を検討できるようデータの整備を進める。災害伝承と被災記憶の関係については、住民アンケートのフォローアップ調査を実施するなどして、解明を鋭意進める。
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