本研究では、人体を取り巻く様々な温熱環境に対する温熱快適性評価や健康性評価を行うことを目的としており、2023年度は主に以下の2課題に取り組んだ。
1)皮膚モデルの開発:2022年度の実験に引き続き、皮膚モデルを様々な温熱環境に適用するために、昨年度までの中立室内環境条件に加え、寒冷室内環境条件で人体各部位に異なる波長帯域放射を照射する被験者実験を行った。実験の結果、寒冷環境条件において、ほぼすべての人体部位において遠赤外放射は近赤外放射に比べより強い暖かさや気持ちよさを与えること、温熱感度は手背部が最も敏感であり下腿部が最も鈍感であることが分かった。また、照射直後は皮膚温が急激に上昇したことにより強い気持ちよさが感じられることが分かり、近年注目されているThermal Alliesthesiaの概念を支持する結果となった。さらに、皮膚モデルを用いて手背部を対象に被験者実験を再現し、遠赤外放射は近赤外放射と比較してより暖かさおよび気持ち良さを与えることを定量的に示した。以上の被験者実験の結果に関して、国際学会に投稿中である。
2)半屋外空間における被験者実験:非定常環境下におけるTATシミュレータの応用を目的として、様々な半屋外環境で被験者28名を対象に実験を行った。本実験で詳細に得られた半屋外環境の物理量および人体の生理量・心理量測定データは、非定常環境下におけるTATシミュレータの予測精度検証および改良に寄与する。新型コロナウイルス感染症環境下で被験者実験の実施が難しい中、検証が可能なデータを取得することができた。
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