研究課題/領域番号 |
19H00800
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
浅井 圭介 東北大学, 工学研究科, 教授 (40358669)
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研究分担者 |
青野 光 東京理科大学, 工学部機械工学科, 助教 (10623712)
野々村 拓 東北大学, 工学研究科, 准教授 (60547967)
澤田 惠介 東北大学, 工学研究科, 教授 (80226068)
齋藤 勇士 東北大学, 工学研究科, 助教 (50828788)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 感圧塗料 / 変形計測 / 回転翼 / 羽ばたき翼 / ロコモーション原理 |
研究実績の概要 |
羽ばたき翼と回転翼は揚力や推進力を効率的に発生するだけでなく,乱気流のなかでも安定性や操縦性を保持する能力を持っている.運動する翼面の周囲には前縁剥離渦や渦輪などの大規模なはく離渦が存在し,それらと翼面との相互作用で生まれる流体力が外乱に対するロバスト性を生んでいる.本研究では,このような非定常流体力によるロコモーションの流体力学的なメカニズムを明らかにすることを目的とする.そのため,酸素消光性を有する色素分子からなる「感圧塗料」(PSP)と、データ同化を利用した3次元形状変形計測(VDM)を組み合わせることによって,変形する翼面上の非定常圧力分布を画像に捉える計測に世界で初めて挑む.初年度はその第一段階として以下の課題に取り組んだ. (1)新規購入した高速度カメラを利用して,パルス励起された感圧塗料の発光減衰をシングルショットで計測する新手法の開発に取り組んだ.合わせて最適ゲートの決定法や信号雑音比を向上するための各種手法の評価を行った. (2)ベンチマーク試験の第一弾として,高速回転するプロペラのブレード上の圧力分布の計測に着手した.実験は大気圧下で実施し2枚のブレードをPSPとTSPで塗り分けた.その結果,寿命法による塗料の発光減衰の計測値から圧力と温度を同時計測する見通しが得られた. (3)写真測量法によるステレオ計測を基準とし,データ駆動科学の手法を用いて物体の3次元形状変形を計測する手法の検討を行った.弾性変形するプラスティック板を用いた予備実験を行った結果,十分な学習を行えばシングルカメラで高精度の3次元形状計測が実現できることが明らかになった. (4)火星大気風洞の内部の酸素濃度を可変する機構を導入し,任意の酸素濃度で感圧塗料の計測が行える環境を整備した.併せて,酸素濃度の異なる条件で,感圧塗料の応答性・感度・発光強度を調べるためのサンプル試験の環境を整えた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
感圧塗料の寿命計測手法と3次元形状変形計測手法の開発については順調に進んでいる.一方,感圧塗料・感温塗料の膜面への印刷手法の開発については,感圧塗料を膜面に自動印刷する技術の開発に取り組んだが,ノズル詰まりなどの技術的問題とXYZトラバースの作動プログラムの不具合により,これが予想以上に難しい課題であることが明らかになった.大気圧下でのベンチマーク試験(回転翼・剛体)は順調に進んでいるが,火星大気風洞を用いた低圧下での回転翼の実験は,当初予定した塗料が有機物等の汚染による劣化の影響を受けることが判明したため,塗料の選定に時間を要している.また,火星大気風洞の内部の酸素濃度を可変する機構の導入は,最適な酸素モル分率範囲の特定に時間がかかり,機器の選定が遅れため,実際の設置までに時間がかかった.酸素濃度を可変した状態での回転翼の実験は次年度に持ち越しとなった.
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今後の研究の推進方策 |
感圧塗料の寿命計測手法と3次元形状変形計測手法の開発は順調に進んでおり,ベンチマーク試験の段階を,回転翼(剛体)から回転翼(弾性体)へと発展させる.合わせて,PSP計測用の羽ばたきロボットの設計・製作に着手する.これとは並行に火星大気風洞で回転翼の低圧実験を行う.まずは作動気体を空気にした実験を行い,寿命法を用いてPSP計測が予測通り実現できることを実証する.その後,チャンバー内の酸素モル分率を可変した実験に着手する.それに先立ち,酸素モル分率と圧力を可変しながら,さまざまな種類の感圧塗料サンプルの圧力・温度感度,発光強度,時間応答性を系統的に調査し,実験に使用する塗料と酸素濃度を決定する.一方,研究が遅れている感圧塗料・感温塗料の膜面への印刷手法については,直面した技術課題の克服に引き続き取り組むと同時に,感圧・感温色素を1つのバインダに混合した「複合塗料」の寿命計測や,ドイツ航空宇宙研究センターと共同で研究を進めている,PSPを正弦波励起した際の位相と振幅の変化から圧力と温度を算出する「FLIM法」(Frequency-domain Lifetime Imaging Technique)などの代替法の検討を並行して進める.これらの課題を年度内に解決し,最終年度に実施する羽ばたき翼模型の変形する翼面上の非定常圧力分布を画像に捉える計測に挑む.
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