研究課題/領域番号 |
19H00804
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
大沢 直樹 大阪大学, 工学研究科, 教授 (90252585)
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研究分担者 |
高田 篤志 国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所, その他部局等, 研究員 (90470054)
小島 隆志 国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所, その他部局等, 研究員 (70392694)
林原 仁志 国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所, その他部局等, 研究員 (20511588)
井上 朝哉 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 研究プラットフォーム運用開発部門, 主任技術研究員 (10359127)
石渡 隼也 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 研究プラットフォーム運用開発部門, 技術主任 (60834645)
北野 克和 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (10302910)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 船舶海洋構造物 / 海水タンク / 塗膜下腐食 / 実船モニタリング / 鉄二価イオン感応性蛍光物質 / セルオートマトン / 空間共分散構造 / マルコフ連鎖モンテカルロ法 |
研究実績の概要 |
船舶海洋構造物の構造健全性マネジメントを高度化するには,海水タンク壁面の大域的腐食衰耗空間プロフィールの高精度シミュレーションを実現する必要がある.この目的達成のため,以下を実施する:a)地球深部探査船バラストタンクの塗膜劣化・腐食状態の長期定点観測;b)タンク壁面の各構造部位の塗膜欠陥統計特性確率モデルの構築;c)塗膜性能・腐食環境の不均一性と再塗装・補修を考慮したタンク壁全体の塗膜劣化・金属腐食連成シミュレーション手法の開発;d)腐食モニタリング結果を用いたベイズ更新によりシミュレーション精度を向上させる手法の開発.2019年度は,各項目について以下の成果を得た. a)実船海水タンク内腐食環境の長期モニタリングを可能にする装置一式を設計製作し,地球深部探査船「ちきゅう」4番ウイングタンク中に設置した. b)塗膜欠陥統計特性の基礎情報となる塗膜下腐食潜伏寿命の定量的計測を可能にする,鉄二価イオン感応性蛍光物質RhoNox-1を合成した.適切な時間内に塗膜下腐食が発生する透明塗装の仕様を決定し,RhoNox-1添加透明塗装試験板を作成した.さらに蛍光発光・電気化学同時計測装置を設計製作するとともに,蛍光計測データのスペクトロイメージング解析ソフトウェアを開発した. c)大寸法塗装試験板の腐食プロファイルの不均一性を再現するため,塗膜下腐食セルオートマトン解析プログラムを,セルパラメータを空間共分散構造付乱数場で与えるよう改良した.改良プログラムの有効性を,複数塗装欠陥入り塗装試験板の複合環境サイクル腐食試験シミュレーションを実施し,実験結果と比較することにより検証した. d)船舶海洋構造物の構造規則に採用されている腐食衰耗モデルの計算パラメタの事後分布を,腐食試験データを観測値としたマルコフ連鎖モンテカルロ法(MCMC)でベイズ推定できる解析システムを構築した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
a)実船バラストタンクの塗膜劣化・腐食状態の長期定点観測:モニタリング装置の設計に必要なタンク内調査が当初見込みより遅れるとともに,当初想定以上の安全対策の必要性を認めたため仕様検討に時間を要することとなり,最終的に,モニタリング対象船の運航計画の制限もあり,設置作業が2020年2月末となった.また,コロナ禍による訪船禁止措置などもあり、モニタリングデータの取得開始が当初見込みより遅れることになった.さらに,モニタリング装置の詳細設計に際し,タンク内視察により装置設置場所を調査,および搭載要領の検討を行う中で、当初想定以上の安全対策の必要性を認め,これに対応した防水容器の仕様変更のためモニタリング装置価格が予定より約150万円高くなった.これにより,項目c)で使用するワークステーションの購入を中止した. b)塗膜下腐食潜伏寿命の定量的計測:RhoNox-1合成作業に予想以上の時間を要し,計画の2019年9月にRhoNox-1合成を完了できなかった.このため,研究分担者に追加した東京農工大学・北野克和准教授が合成を分担し,2019年12月に合成を完了した.この影響でRhoNox-1添加塗装試験板の塗装仕様調整が2020年1月開始になり,さらにコロナ禍の影響もあって試験板完成が2020年3月に遅れた.蛍光計測は大阪大学でのみ実施できるため,海上技術安全研究所(東京都三鷹市)・林原仁志研究員が大阪に出張して電気化学計測を実施する計画であったが,コロナ禍のため出張が不可能となり,2019年度中に腐食試験を開始できなかった. c)大寸法塗装試験板の腐食プロファイルの不均一性:塗膜下腐食セルオートマトン解析プログラムの改良は予定通り推進できた. d)腐食衰耗モデルの計算パラメタの事後分布:パラメタ事後分布を計算するマルコフ連鎖モンテカルロ法(MCMC)解析システム構築は予定通り推進できた.
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今後の研究の推進方策 |
a)地球深部探査船バラストタンクの塗膜劣化・腐食状態の長期定点観測:現在、訪船禁止措置を取られている実船モニタリング対象船「ちきゅう」の処置解除時には,厳重な新型コロナウイルス感染予防策を講じて,必要最小限の要員が修繕ドック(佐世保どっく)または寄港地に出張してモニタリング計測を開始する.これにより最悪でも年度内にモニタリング開始を実現する.. b)塗膜下腐食潜伏寿命の定量的計測:海上技術安全研究所から林原仁志研究員がビデオ講義により大阪大学学生に電気化学測定の理論・技法を教授するとともに,大阪大学が実施する測定データを海上技術安全研究所でリアルタイム視聴できるようにして,蛍光・電気化学計測の2020年6月開始を実現する.また,2020年度予算が執行可能になり次第,東京農工大学での2020年度使用分RhoNox-1の合成と,海上技術安全研究所における塗装試験板表面処理仕様の検討を始め,2020年10月に,表面処理仕様と腐食潜伏寿命の関係を調査するための,鉄二価感応性蛍光物質添加塗装試験板による腐食試験を開始可能にする. c)塗膜下腐食セルオートマトン解析プログラムの改良は計画通り進捗しているので特に対策は必要ない. d)腐食衰耗モデルパラメタのマルコフ連鎖モンテカルロ法(MCMC)解析システム構築は計画通り進捗しているので特に対策は必要ない. 全般)新型コロナウイルス流行の研究計画への影響を少なくするために,当面の間は,大阪大学,海上技術安全研究所,海洋研究開発機構の意見交換はビデオ会議で行う.
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