研究課題/領域番号 |
19H00809
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
青木 伸一 大阪大学, 工学研究科, 教授 (60159283)
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研究分担者 |
鈴木 博善 大阪大学, 工学研究科, 准教授 (00252601)
入江 政安 大阪大学, 工学研究科, 教授 (00379116)
倉敷 哲生 大阪大学, 工学研究科, 教授 (30294028)
CRUZ Ana・Maria 京都大学, 防災研究所, 教授 (30741459)
高木 洋平 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 准教授 (40435772)
佐々木 勇弥 大阪大学, 工学研究科, 助教 (70807487)
荒木 進歩 大阪大学, 工学研究科, 准教授 (80324804)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 沿岸災害 / 産業災害 / 堤外地 / 石油コンビナート / リスクコミュニケーション / Natech / 防災 |
研究実績の概要 |
石油タンクに及ぼす流体力については,津波越流時のタンクの転倒・損傷リスクを把握するために,流体構造連成解析を単一タンクに対して行った.タンクの構造特性によってはタンク側面に応力が集中して破損するリスクがあることがわかった.ハザードモデルの開発については,津波以外の外力成分が漂流物の挙動に及ぼす影響を評価した.津波による流れより風の影響が大きくなる場合や,潮汐の影響が強くなる場合があることを示した. フレキシブルパイプ型津波減勢工については,縮尺模型を用いて内圧と変形の関係を調査した.さらにパイプが直立に近い状態が維持できた場合の効果について検討を行った.実験結果をもとに実機フレキシブルパイプの有効性をCFDを用いた津波シミュレーションで明らかにした.大阪北港を対象に計算を実施したところ,フレキシブルパイプは津波を低減できることがわかった.地形改変による津波減勢技術については,海岸線に堤体と堀を組み合わせた設置効果について検討した.これにより,効果的に浸水深および遡上流速を低減できること,堤体と堀の設置間隔に最適値が存在すること,陸域の浸水開始時刻を遅らせる効果があることを示した. 津波火災の減災対策として油吸着材を考慮した燃焼実験を行った.がれきを模擬したバルサ木材片を用いた燃焼実験を行い,種々の油吸着材による減災効果を確認した.また,ウォーターカーテンを考慮した気体拡散解析について高密度ガスへの適用可能性を確認した. リスクコミュニケーションについては,特別防災区域に立地する中小企業を対象にアンケート調査等を行った結果,企業間のNatechに対する防災上の連携は不十分であることが明らかになった.第5回Natechシンポジウムをオンライン開催し,イタリアとコロンビアの民間企業,コロンビア,フランス,イタリアの欧州委員会重大事故災害局等との国際協力体制を構築した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度の研究については,下記のとおり,ほとんどのサブテーマについて当初の計画どおり進捗しており,概ね順調に進展している. 石油タンクに及ぼす流体力と破壊メカニズムの検討にいては,タンク破壊時の動的挙動まで含めて,水理模型実験および数値シミュレーションの両面から研究を進めており,順調に進捗している. 油拡散のシミュレーションについては,モデルの高精度化に取り組んでいる.統合型海域ハザードモデルの開発につ いても,順調に開発が進んでおり,数値モデルの高精度化に向けて,港湾形状や密度場を正確に考慮できる新たな3次元流動モデルの導入を行い,試計算を実施している. 船舶の避航・漂流シミュレーション法の開発については,やや研究が 遅れているが,AISデータを利用した船舶挙動の解析を行うべく準備を進めている. 対策工のうち,フレキシブルパイプを用いた減勢技術の開発については,実用化を目指した研究が順調に進んでいる.地形改変による津波の減勢技術の開発については,台風時の現地海岸での波の打ち上げ現象と共通点があることから,現地海岸での打ち上げと地形の関係について検討を始めている.石油タンクからの熱・物質放射の制御技術の開発については,その対策を念頭においたシミュレーションの開発および基礎実験に取り組んでおり,順調に研究が進んでいる. 企業防災と地域防災をつなぐリスクコミュニケーションついては,企業へのアンケート調査やヒアリングなどを実施し,Natech防災の実態調査を行うなど,順調に研究を進めている.2020年3月に実施予定であった国際シンポジウムは,コロナウィルス感染拡大の影響で1年延期し,2021年3月にオンラインで開催し,35件の発表と約100名の参加者を得て有意義な情報交換の場を提供できた.時差の問題はあるもののオンライン国際シンポの有用性が確認できた.
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今後の研究の推進方策 |
タンクに作用する津波流体力については,直列に配置された2つの円筒タンクについて,津波流体力の軽減を目的として,沖側に配置された円筒形タンクによる遮蔽効果を明らかにするための実験を実施する. 油拡散シミュレーションについては,大阪府が進めている津波被害対策の効果をシミュレーションによって評価する予定である.ハザードモデルの開発については,港湾形状を正確に表現できる非構造格子を採用し,津波が埋め立て地に遡上した後の陸上の挙動も同時に計算することが可能な3次元流動モデルを用いて,大阪湾における津波漂流物の挙動計算を実施する.また,海上火災発生リスクマップの可視化を行う.船舶の避航については,ビッグデータである船舶自動識別装置(AIS)のデータを利用して,コンビナート地区に出入りする船の挙動と係留状態の分析を行う. フレキシブルパイプ型津波減勢工については,引き続き実現可能性の検討を行う.さらに,フレキシブルパイプ装置を堤防上に設置することも含めて検討する.地形改変による津波減勢技術については,神戸市須磨海岸を対象に,現地調査を実施するとともに,台風来襲時の波浪遡上過程の解析を行う.津波火災の減災対策としては,がれき及び油吸着材を考慮した燃焼実験およびウォーターカーテンを考慮した気体拡散解析を実施する. リスクコミュニケーションについては,特定事業所を対象に,Natechに対する防災対策についてアンケート調査を実施する.また,フューチャー・デザインを用いた防災に関するワークショップを実施する.さらに,Natechリスクコミュニケーション向上のためのシリアスボードゲームの開発・検証,国内外のNatechリスク低減実践に関するデータ収集を行う. 第6回Natech国際シンポジウムをコロンビアの政府機関と共同開催する予定である.さらに, Natech関連の洋書の出版を企画する.
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