研究課題/領域番号 |
19H00812
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
矢野 真一郎 九州大学, 工学研究院, 教授 (80274489)
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研究分担者 |
笠間 清伸 東京工業大学, 環境・社会理工学院, 准教授 (10315111)
二瓶 泰雄 東京理科大学, 理工学部土木工学科, 教授 (60262268)
水野 秀明 九州大学, 農学研究院, 准教授 (80356104)
浅井 光輝 九州大学, 工学研究院, 准教授 (90411230)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 流木 / 洪水 / 気候変動 / リスク評価 / 流域 / 橋梁捕捉実験 / SPH |
研究実績の概要 |
まず,平成29年7月九州北部豪雨において災害の生じた福岡県朝倉市奈良ケ谷川及び寒水川を対象として,流木の生産・堆積・流出の実態を明らかにするとともに,斜面崩壊の時刻を物理的モデルによる推定値と住民へのアンケート結果を比較して推定した. 次に,平成29年7月九州北部豪雨の被災河川を対象として,USGS が公開している 「TRIGRS」を使用し斜面崩壊危険度の解析を行った.その結果,奈良ヶ谷川,北川,寒水川,白木谷川,及び赤谷川流域で 60%以上の的中率を得た.さらに,ロジスティックモデルを用いた斜面危険度評価モデルの開発も同流域を対象に試みた.その結果,被災15河川における流木発生量の予測結果は,概ね誤差20%以内に収まっていた. 次に,橋脚周辺の局所洗掘への流木捕捉影響を実験的に検討した.その結果,流木捕捉高さが河床より高いと洗掘がより促進される一方,河床近くに流木が捕捉されると洗掘を大幅に抑制することが明らかとなった.さらに,3Dプリンタにより枝の有無を考慮した流木模型を作成し,橋脚への流木捕捉現象における枝の影響の評価,ならびに流木材料の違いによる捕捉率の変化についての基礎的実験を行った.その結果,枝の有無で大きく捕捉率が変動すること,ならびに流木模型の材料の違いにより捕捉率が変化することが示された. 最後に,これまでに開発してきたSmoothed Particle Hydrodynamics(SPH)に以下の改良を加えた.まず,都市規模の水害を表現するための大規模並列化コードを強化した.次に,水害時の被害推定のために,地盤と流体の連成解析機能を追加した.さらに,都市規模の水害時の木造家屋,橋梁の崩壊を表現するためのASI-Gauss法を開発した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず,斜面崩壊予測モデルの開発においては,当初計画していた地盤力学的評価手法であるH-SLIDER法の改良をやめ,USDSが公開している物理モデルであるTRIGRSを用いたモデル開発と,平成29年九州北部豪雨により一回の豪雨イベントで多数の斜面崩壊が発生したことから,このデータを活かしたロジスティックモデルによる統計解析手法を適用した評価モデルの開発を試みた.両者とも良好な結果を示しており,今後はこれらのモデルをベースにした流木災害リスクモデルの開発を進める.さらに,開発したモデルを改良する手段として森林の健全度などを数値化し,その影響を組み込むことを予定しているが,この部分は現地調査によりその基盤となるデータ取得を実施し,次年度にデータを活用した展開を考えている. また,九州北部豪雨の斜面崩壊を高精度に予測できることが明らかとなっており,降雨パターンに応じた評価までを可能にすることができた.これにより,河川計画で用いられる計画降雨に対応した流木発生量評価を行うためのベースモデルが完成したといえる.実際に,九州北部豪雨の被災河川で降雨の生起確率に対応した発生流木量の評価を行い,量的に流木の確率表示ができるようになった. さらに,予定していた室内実験装置を完成し,3Dプリンタを用いた流木模型の作成を初めて行い,水理実験に使用した.その際,従来の木製模型とは異なる橋脚捕捉傾向が見られたことから,流木模型と橋梁模型の材料の違いの影響があることが示唆されるなど,これまでの流木実験では考慮されてこなかった新しい発見が得られた.また,粒子法であるSPHを改良し,橋梁に流木が捕捉される現象を再現するための数値モデルについてもベースモデルが完成した. 以上,当初計画のうち,いくつかについては予定以上の成果も得られるなど,概ね順調に進展していると評価している.
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今後の研究の推進方策 |
次のサブテーマを全研究期間の前半で実施する計画を立てている. ア)斜面勾配などの地形条件だけでなく,地質情報を加味することで降雨に応じた斜面崩壊危険度評価法の開発を行う.拡張H-SLIDER法で仮定されている定常降雨を非定常降雨へ拡張できる物理関係を室内土質実験と現地実験によりモデリングする.イ)森林の間伐状態や表土の状態など森林の健全度を指標にした斜面崩壊危険度評価法を確立する.また,樹木の根系の状態も加味した評価ができるような関係を明らかにすることを人工降雨発生装置つきの室内実験装置を用いて明らかにし,モデリングする.ウ)平成29年7月九州北部豪雨での斜面崩壊や流木流出パターンの詳細な現地調査による検討を行う.上記ア)イ)の検証用データとしても利用し,流木発生の確率表示を可能にする.エ)流木の橋梁への集積過程について,流木の幹・根・枝などの3D形状を精密に再現した流木モデルを作成し,可変勾配型開水路を用いて室内水理実験を行うことで,従来のような棒状の流木モデルとの違いを明確にした集積率評価を行う.オ)大型開水路を用いて,河道の線形,橋梁と河道断面との関係性などの影響を加味した流木水理実験を行い,橋梁への流木集積率の普遍表示を試みる.また,粒子法を用いた水・流木・橋梁を考慮したマルチフィジックス数値解析により,数値実験的に集積率の普遍表示を試みる. 本年度は,前年度に完成した室内実験設置を用いて,3Dプリントした流木モデルを用いた実験を継続する.数値モデリングについては,前述の水理実験の再現解析を目標にした解析を継続して行い,実験結果を用いたヴァリデーションを行う.また,九州北部豪雨被災地,西日本豪雨被災地に加え,昨年度に発生した台風19号による被災地である宮城県丸森町の河川についても現地調査を実施し,特に森林の健全性や根系の状況,表土の地質などを中心として調べる.
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