研究課題/領域番号 |
19H00815
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研究機関 | 気象庁気象研究所 |
研究代表者 |
山田 芳則 気象庁気象研究所, 気象観測研究部, 研究官 (80553164)
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研究分担者 |
伊藤 純至 東北大学, 理学研究科, 准教授 (00726193)
山田 朋人 北海道大学, 工学研究院, 准教授 (10554959)
林 修吾 気象庁気象研究所, 気象予報研究部, 主任研究官 (20354441)
佐藤 晋介 国立研究開発法人情報通信研究機構, 電磁波研究所リモートセンシング研究室, 研究マネージャー (30358981)
平田 祥人 筑波大学, システム情報系, 准教授 (40512017)
牛尾 知雄 大阪大学, 工学研究科, 教授 (50332961)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | フェーズドアレイレーダー / 先端的三次元風解析 / シビア現象 / 高解像度数値モデル / 非線形時系列解析 / 短時間予測 |
研究実績の概要 |
デュアル・フェーズドアレイレーダー解析のために必要となるソフトウェア群を整備して、降水システム内の3次元気流構造の時間発展を30秒間隔で解析した。風解析では、水平解像度 0.5 km, 鉛直解像度 0.3 km とした。対流活動が比較的活発な事例とあまり活発でない事例について解析を行った。30秒という高時間解像度により、この降水システム内での3次元気流構造の急激な時間変化を捉えることに成功した。前者の場合、活発な対流セルでは鉛直流の大きさは最大で十数 m/s であった。また、降水コアは雲の上部だけでなく、周囲からの気流との相互作用によって雲の中層でも形成されて、数分後に降水として地上に落下することも明らかになった。後者の事例では、鉛直流の最大値は 数 m/s と、活発な対流雲に比べて小さな値であった。 マルチ・ドップラーレーダー解析を用いてバックビルディング型の線状降水帯の降雨セルを対象に風速場を算出し,対流を強める縦渦構造と降水強度の関係を示した。対流圏下層での湿潤空気塊の流入・収束によってもたらされた上昇流が中層で縦渦構造へと発達する様子を捉え、同構造の発生位置・時間が降水強度が強まる位置・時間と一致することを示した。 数値実験では、極端降水をもたらすバックビルディング型の降水システムのシミュレーションを行い、積乱雲の内部の詳細構造や鉛直流速の解像度依存性などを明らかにした。この研究成果をまとめた原著論文が米国気象学会の学会誌に掲載された。 二重偏波レーダー観測に最新の粒子判別手法を適用することで,粒子種別毎の積乱雲内に占める体積を算出し,それらを組み合わせて雷放電をもたらす積乱雲の特徴を表す新たな雷指標を開発した。 イベント系列解析のための新しい距離を提案した。この新しい距離は、より疎なイベント系列が扱えるように、距離の定義を工夫している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度に計画していた取り組みについて、一部に若干の遅れがあるものの、おおむね計画通りに進捗していると考えている。特に本課題の核の一つである、デュアルフェーズドアレイレーダーによる多様な地表面上での3次元風解析システムによって高い時間解像度で3次元風解析に成功したことは大きな進捗である。 昨年度に整備を完了したフェーズドアレイレーダー関連のソフトウェア群を用いて、デュアル・フェーズドアレイレーダー解析によって高い時間解像度(30秒間隔)で風解析などが実行できるようになり、実際、対流の活発な事例とそうでない事例について3次元構造の時間変化を解析できるようになった。気流解析時における水平・鉛直方向の空間解像度は、それぞれ 0.5 km, 0.3 km と比較的高く設定可能である。整備した風解析システムは既存のドップラーレーダー網にも適用可能であり、マルチ・ドップラー3次元解析によってバックビルディング型線状降水帯降内の降雨セル構造を解明した。ただし、フェーズドアレイレーダーは、従来型レーダーに比べてドップラー速度や反射強度にノイズや品質の悪いデータが特に低仰角データに多く含まれるため、データの品質管理に多くの時間を割かなければならない点が問題となっている。また、シビア現象を発現するような雲が観測対象領域内に出現しなかった。 数値モデルでは、極端降水をもたらすバックビルディング型の降水システムのシミュレーションを行い、積乱雲の内部の詳細構造や鉛直流速の解像度依存性などが解明でき、計画どおりに進捗している。 平地と山地での降水強度や降水粒子の粒径分布の違いを観測するための降水粒子観測については、大阪府内の2地点において機器を設置してデータを取得できるようになった。 フェーズドアレイレーダーの高速性を活用して、反射強度の時間変化を用いた降水短時間予測の検討を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
構築した3次元風解析システムを活用して、多様な地表面上でのデュアル・フェーズドアレイレーダー解析によってさまざまな対流雲の時間発展を明らかにしつつ、短時間強雨や突風などのシビア現象の発生機構を解明する研究を進めていく。この過程で重要な鍵となるのがドップラー速度データの品質管理である。適切な品質管理を行ってはじめて高精度の気流を算出することができる。しかし、一般的に品質管理は非常に多くの時間を要する処理であり、律速段階でもある。品質管理を完璧に行う方法は現在でも考案されておらず、新手法の開発も研究期間内では非常に困難である。特に高速スキャンを行うフェーズドアレイレーダーでは、質の悪いデータの割合が従来型レーダーに比べて多くなる傾向がみられ、特に低仰角において顕著である。30秒毎の速度データの大量処理の必要性から品質管理支援ソフトウェアを整備したものの、品質管理の作業効率を一層向上させることが研究の進展に欠かせない。Yamada (2021) と 山田ら (2009) の方法を組み合わせることで品質管理の作業時間をわずかながら短縮できる場合があることが判明した。今後も既存の手法の改良などによって品質管理処理の作業負荷を軽減し、風解析の効率化を図る。 積乱雲に伴う乱流を解像できるようなラージ・エディ・シミュレーションやデュアル・フェーズドアレイレーダー解析を行った対流雲を対象として数値実験を行い、これらの実験結果とレーダーによる解析結果とを比較して、モデルの妥当性を検討するとともに、シビア現象の発生機構を考察する。また、数値モデルによる降水量と降水粒子観測とを比較し、雲微物理モデルの妥当性の検討や改良などを行う。 降水量の短時間予測のためのアルゴリズムを考察する。
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備考 |
今後も研究成果などを掲載して内容を充実させていく。
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