研究課題/領域番号 |
19H00821
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
八島 正知 東京工業大学, 理学院, 教授 (00239740)
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研究分担者 |
高垣 敦 九州大学, 工学研究院, 准教授 (30456157)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | イオン伝導体 |
研究実績の概要 |
本課題では,過去に検討がなされていない数多くの物質群について,構造マップ,結晶構造データベース、結合原子価法などを駆使して新しい結晶構造を持つイオン伝導体の候補ならびに新しいタイプのイオン伝導体の候補を探索した.有望な候補物質を合成,酸化物イオン伝導などの物性と結晶構造を実験で調べ,優れた特性を示す新構造ファミリーを探索し、物性発現機構を研究した。2021年度の主な研究実績は、①高い酸化物イオン伝導度を示す新しい六方ペロブスカイト関連酸化物を発見したこと(Small誌に出版、プレスリリース、新聞発表)、②従来より伝導度が高い新しいDion-Jacobson化合物を発見したこと(Ceram. Int.誌に出版)、③酸塩化物では初めてとなる酸化物イオン伝導体を発見したこと(ACS Appl. Energy Mater. 誌に出版)、④酸化物イオン伝導体である六方ペロブスカイト関連酸化物の酸化物イオン伝導性と結晶構造の関係を解明したこと(J. Phys. Chem. C誌に出版)である。特に、①では(1)新しい母物質の固溶体を発見して、関連物質よりも高い酸化物イオン伝導度を示すことがわかったこと、(2)従来未解明であったMo/Nb規則・不規則性を、新しい母物質の固溶体でTa/Nb規則性を見出したことは価値が高い。②ではSr/Bi置換により従来のDion-Jacobson相の伝導度を2倍向上させることに成功した。③の酸塩化物に関する研究では、酸化物イオンに比べてサイズが大きな塩化物イオンを利用すれば、格子体積と自由体積が大きな化合物を安定化できるというユニークな発想により、酸塩化物という新しいタイプの酸化物イオン伝導体の発見に至った。④では、中性子散乱長密度分布というユニークな手法により、物質による伝導度の活性化エネルギーの違いを解明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本課題では,過去に検討がなされていない数多くの物質群について,構造マップ,結合原子価法などを駆使して新奇な結晶構造を持つ候補を探索するという独自の手法を駆使することによって、いくつかの新イオン伝導体の発見に至ったものである。Dion-Jacobson相では初めての酸化物イオン伝導体を発見し、英国の科学雑誌Nature Communicationsに出版した。この成果はわずか2年で30回以上引用されている。また、世界最高クラスの伝導度を示す六方ペロブスカイト関連化合物を発見してNature Communicationsに掲載された。この論文はわずか1年あまりで27回引用されると共に、企業との共同研究につながるなど広がりを見せている。2021年度には、企業と共同で、高温で更に伝導度が高い六方ペロブスカイト関連化合物を発見してドイツの科学雑誌Smallに出版し、プレスリリースを行ったところ、新聞にも記事が掲載された。また、2021年度には、酸塩化物という新しいタイプの酸化物イオン伝導体も発見した。これらの成果により国際会議、国内会議で基調講演、招待講演をいくつか行うと共に、依頼解説記事も執筆した。また、J. Mater. Chem. Aに2021年(英国のFop)と2022年(イタリアのMalavasiグループ)に出版された二つの総説においても、本成果は高く評価されている。これらのことは発見した新しいイオン伝導体の性能の高さや設計思想、伝導機構が世界的に注目されていることを示している。また、酸塩化物という新しいタイプの伝導体を発見、様々なイオン伝導体の伝導機構を精密な結晶構造によって解明してきた。また、国際・国内共同研究を積極的に行った。若手・学生を育成し、2021年度の学会等での受賞は10件にもなっている。以上の理由により、研究は当初の計画以上に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、有望な候補物質を合成,酸化物イオン伝導などの物性と結晶構造を実験で調べ,優れた特性を示す新構造ファミリーを探索していく.今まで材料として注目されてこなかった物質群を 抽出し,構造マップ,結合原子価等により候補物質を高速スクリーニングして,新型材料をデザイン・探索・発見することを第1の目的とする.また,構造マップで未知領域の新物質(化学組成領域)の合成に果敢に挑戦し,新物質 と機能を開拓することを第2の目的としている.また,発見した材料の結晶構造と物性の関係を解明していく。最近、さらに伝導度が高く、世界最高クラスの酸化物イオン伝導度を示す新型伝導体を発見しつつあるので、直流四端子法および交流法で伝導度の温度および酸素分圧依存性、輸率などの輸送特性を調べると共に、中性子回折や電気伝導度や熱重量も検討する。特に、中性子回折により酸素原子の位置と熱振動を調べることが重要である。中性子回折実験は、J-PARC、JRR-3、豪州ANSTOなどで実施予定である。コロナの影響で豪州ANSTOを利用できない場合は、日本国内で実験を行う予定である。占有率を精確に調べるためにはいくつかの線源をもちいることが有効である。そこで波長を変えた放射光X線回折実験も行う予定である。放射光X線回折実験は、SPring-8およびPFで実施予定である。また、発見した世界最高クラスの酸化物イオン伝導体の類縁物質を探索して、より優れた酸化物イオン伝導体の発見を目指す。発見した新物質について、電気伝導度の温度および酸素分圧依存性および水蒸気分圧依存性、高温X線回折と中性子回折による高温における結晶構造とその変化および相転移について調べ、新しいエネルギー科学分野と構造科学分野を切り開いていきたい。引き続き国際・国内共同研究を積極的に行い、若手・学生を育成し、国際的なプレゼンスも高めていく予定である。
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