研究課題/領域番号 |
19H00825
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
白土 優 大阪大学, 工学研究科, 准教授 (70379121)
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研究分担者 |
遠藤 恭 東北大学, 工学研究科, 准教授 (50335379)
中谷 亮一 大阪大学, 工学研究科, 教授 (60314374)
豊木 研太郎 大阪大学, 工学研究科, 助教 (90780007)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 反強磁性体 / スピン / ダイナミクス / 電気磁気効果 |
研究実績の概要 |
磁性体の動的機能においては,磁気共鳴周波数やダンピング定数が動作速度を決める重要なパラメータとなる.反強磁性体のスピン動作は,強磁性体と比較して数桁の高速動作が可能であるが,デバイス化に必須である薄膜における励起・検出,ならびに,その制御された例はない.こうした状況において,本研究課題では反強磁性絶縁体Cr2O3薄膜のスピンダイナミクスを制御することを目標とした.2019年度の主な成果を,以下に記す. (1)Cr2O3薄膜上の垂直磁化強磁性薄膜のダンピング定数の決定:電気磁気効果によって反転させたCr2O3薄膜の反強磁性磁壁移動速度が,マーカーとして用いる強磁性層のダンピング定数の影響を強く受けていることを見出してきた.2019年度の成果として,Cr2O3層上に積層したCo/Pt垂直磁化膜のダンピング定数を実験的に強化し,電気磁気効果駆動反強磁性磁壁移動から見積もられる値と同じオーダーであることを明らかにした.また,さらなる高速化を目指して,Cr2O3層上に形成可能な低ダンピング強磁性薄膜の検討を進めた. (2)強磁性層フリー反強磁性Cr2O3薄膜における反強磁性スピン検出 従来使用してきた強磁性層/Cr2O3積層膜においては,Cr2O3層の反強磁性オーダーパラメータ―の検出が容易であるが,一方で,余剰の駆動エネルギーを必要とする.本研究では,強磁性フリーCr2O3積層膜における反強磁性オーダーパラメータ―検出の可能性として,Pt/Cr2O3積層膜における電気的検出の可能性を検討し,Cr2O3薄膜のネール温度以上で非線形ホール効果が生成し,またその起源が界面スピン構造に起因することを示した. 以上の結果は,各種学術論文誌とともに国内外での学術講演会で発表(招待講演を含む)した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに,(A)Cr2O3薄膜上の垂直磁化膜のダンピングパラメータを系統的に変化させることができる指針を見出し,(B) 電気磁気効果駆動の反強磁性磁壁移動の主たるエネルギー障壁の原因を明らかにするなどの成果を得ている.同時に,磁気光学Kerr効果顕微鏡を用いた電気磁気効果駆動反強磁性磁壁ダイナミクスの検出システムの整備を進めており,現状で予定通りに進捗している コプレーナー導波路を用いたスピンダイナミクス計測については,超電導マグネットへのプロービング技術の開発を進めた.超電導マグネットの設置に関して,マグネット設計段階でのトラブルなどが発生したが,プロービングシステムの開発を同時に進めることで,現状では遅延なく進めることができている.2020年度は,本システムを活用して,Cr2O3薄膜のスピンダイナミクスの計測を目指す. 一方,今年度得られた成果については,学術論文への掲載を進めているものの,2020年3月に開催予定であった国内学術講演会が中止されたことから(発表は成立),研究ソサイエティへのアウトリーチ活動に課題が残る.2020年度の状況は不透明であるが,可能な限り論文,ウェブサイトなどを通じたアウトリーチ活動を進める.
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今後の研究の推進方策 |
2019年度の研究方針を継続させ,(1)’ Cr2O3薄膜上での低ダンピング垂直磁化強磁性薄膜の作製,ならびに,本試料における電気磁気効果駆動反強磁性磁壁移動の定量評価,(2)’ 強磁場下プロービングシステムを利用した反強磁性Cr2O3のスピンダイナミクス計測を進める.(1)’については,磁気光学Kerr効果顕微鏡を用いた簡便な手法での電気磁気効果駆動反強磁性磁壁駆動の検出を可能にしたため(高電圧パルスジェネレーターを2019年度に新設),本手法を用いて,(1)’の検討を進める.また,従来手法は強磁性体/反強磁性体の界面交換結合によって生じる「界面非補償反強磁性モーメント」を検出することを主眼としてきたが,さらに,Cr2O3薄膜の内部サイトに電気磁気効果駆動可能な反強磁性オーダーパラメータと結合した非補償モーメントの生成手法を用いて,反強磁性スピンダイナミクスの励起・検出・制御が可能な系へ発展させる.2020年度は,これらの検討に加えて,Cr2O3薄膜内にスピンダイナミクスの検出起源となる非補償反強磁性モーメントを積極的に導入する方法について検討も同時に進める.(2)’については,2019年度に開発を進めた強磁場下プロービングシステムを用いて,反強磁性Cr2O3のスピンダイナミクス計測を実現することを目標とする.(2)’については,研究分担者(研究代表者とは別組織)との計測試料の授受などが必要であるが,可能な限り遅延なく進められるよう研究推進体制の再構築も検討する.
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