研究課題/領域番号 |
19H00829
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
西田 稔 九州大学, 総合理工学研究院, 教授 (90183540)
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研究分担者 |
赤嶺 大志 九州大学, 総合理工学研究院, 助教 (40804737)
松田 光弘 熊本大学, 大学院先端科学研究部(工), 准教授 (80332865)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 熱弾性マルテンサイト変態 / 形状記憶・超弾性合金 / 階層的顕微解析 / 応力誘起マルテンサイト / 自己調整構造 / その場観察 / 等温変態 |
研究実績の概要 |
熱弾性マルテンサイト(以下,M)変態の多様性を理解するために設定した以下の4つの課題,「①応力誘起Mの結晶学的特徴」,「②熱弾性Mの自己調整と格子欠陥の発生に着目した形状記憶合金の長寿命化」,「③等温熱弾性M変態に伴う組織形成過程と超弾性合金の劣化機構の解明」,「④Strain Glassの実体と時効によるM相の安定化・ゴム弾性機構の解明」に取り組んだ. ①では前年度の引き続き多結晶Ti-Ni合金の応力誘起M(以下,SIM)相の透過電子顕微鏡(TEM)観察を行った.母相結晶粒ごとに主体的に底面上の積層欠陥が生成しているMバリアントと冷却によって生じる熱誘起Mの格子不変変形(以下,LID)と同様の第Ⅱ種双晶が生成しているものが確認され,引張方位の影響,さらには変形温度,すなわち,応力誘起Mかひずみ誘起Mであるかも考慮すべきことが示唆された.また,Cu-Al-Mn合金単結晶において2段階応力誘起変態が起こることを見出した. ②では機能劣化の要因である熱サイクルによって導入される転位がLIDの双晶面に沿って観察されたことから,LIDを生成しないTi-Ni基4元合金の探索を行った.Ti-Ni系超弾性合金の耐疲労特性の改善の観点から疲労破壊の起点となる酸化物系非金属介在物の生成を抑制する手段を見出した. ③では等温変態に伴うLIDの導入,晶癖面と自己調整構造の形成過程を明らかにするためにSEM用試料冷却ステージの改良を検討した.また,Ti-Ni系超弾性合金において水素チャージによって非等温,等温,応力誘起のいずれによっても顕著な生成・成長を起こす水素誘起M相を見出し,この相が脆化の要因となり得ることを示す結果が得られた. ④ではStrain Glassの現象が顕著に起こると報告されているNi過剰Ti-Ni合金単結晶を簡便な手法によって作製することに成功した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
設定した4つの課題について各々の達成度は以下の通りである.④のみやや遅れているが,①,②,③では予想以上の成果が得られている.よって,全体の進捗状況はおおむね順調と判断する. ①では研究実績の概要に記載した通り応力誘起Mの結晶学的特徴が明らかになりつつあり,さらに,微細構造が変形温度,方位依存性を持つことを示唆する結果が得られた.また,Ti-Ni合金に匹敵する特性を有するCu-Al-Mn合金単結晶において2段階応力誘起変態という新たな現象を見出した. ②では耐熱サイクル特性に優れた形状記憶合金の候補材となるTi-Ni基4元合金を見出した.また,Ti-Ni系超弾性合金の耐疲労特性を損なう酸化物系非金属介在物の生成を抑制する方法および炭化物から酸化物への相遷移過程に関する成果を論文発表した. ③ではTi-Ni系合金単相材において等温変態がより低温で起こりやすいことから,走査電子顕微鏡(以下,SEM)用試料冷却ステージの改良を行い,成果を論文発表した.また,水素をチャージしたTi-Ni合金において水素脆化の要因と考えられる水素によって誘起される変位型相変態現象を見出した. ④ではTi-Ni系合金におけるStrain Glass現象の解明に不可欠なNi過剰Ti-Ni合金単結晶を簡便な手法によって作製することに成功した.
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今後の研究の推進方策 |
実績および進捗状況に記載したように①,②,③については一定の成果が得られたので,以下に示すようにさらに内容の充実を図るとともに④について研究を加速させる. ①では前年度に引き続きM相が格子不変変形(LID)として双晶を有するTi-Ni系合金,LIDを積層欠陥とするCu-Al-Mn系合金,LIDが存在しないTi-Ni-Pd系について,多結晶および単結晶試料を作製し熱誘起Mと応力誘起Mの結晶学的類似点と相違点を抽出する.また,Cu-Al-Mn合金単結晶において2段階応力誘起変態が起こることを見出したので,現象を精査する. ②では耐熱サイクル特性に優れたTi-Ni基4元形状記憶合金の候補材の絞り込みを行う.また,耐疲労特性の改善の観点から非金属介在物の相安定性に着目した検討を行う. ③ではSEM用試料冷却ステージをさらに改良し,等温変態に伴うLIDの導入,晶癖面と自己調整構造の形成過程を明らかにする.また,水素の侵入に伴う超弾性合金の劣化機構の解明に取り組む. ④では簡便な方法で作製した組成の異なるNi過剰Ti-Ni合金単結晶の高分解能STEM観察を行い,Strain Glass現象の発現に関与すると報告されている欠陥構造を解析する.ゴム弾性については引き続きAu-CdおよびCu-Al-Mn合金の室温時効過程を経年劣化観察用透過電子顕微鏡試料ホルダーによって,同一試料の同一領域の微細構造の時間変化を調査する.
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