研究課題/領域番号 |
19H00834
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
木村 正雄 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 教授 (00373746)
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研究分担者 |
大林 一平 国立研究開発法人理化学研究所, 革新知能統合研究センター, 研究員 (30583455)
渡邊 稔樹 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 研究員 (90851428)
武市 泰男 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 助教 (40636461)
丹羽 尉博 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 技師 (00743709)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | X線顕微鏡 / X-CT / 顕微分光 / 放射光 / CFRP / パーシステントホモロジー / 機械学習 / き裂 |
研究実績の概要 |
(1) X線顕微鏡による4次元/5次元観察技術の高度化:応力印加条件下で亀裂がいつどこで発生するのかをナノスケールで解明する手法開発を進めた。放射光からの硬X線ビームをX線光学素子を用いて拡大結像する結像型X線顕微鏡(XAFS-CT)による観察技術を高度化し、高い空間分解能(~50nm)で、応力負荷しながら(in situ)X-CTによる観察手法を確立した。 本手法を用いてCFRP (炭素繊維強化プラスチック)におけるき裂の発生、進展の挙動を調べた。その結果、ミクロ・ナノスケールでのき裂の発生・進展挙動は、マクロスケールから予想される「応力集中している場所からき裂が発生する」といった単純なものでは無く、(A)樹脂内でのき裂発生と、(B)炭素繊維/樹脂界面での剥離、が競合して進行していることが新たに明らかになった。 (A),(B)の2つのモードがき裂起点となることは、力学工学や材料力学の様々なモデル計算から予測されていたが、それらをミクロ・ナノスケールで実際に直接観察できたのは世界初である。 (2)走査型X線顕微鏡(STXM)を用いた観察技術の高度化:CFRP中の炭素の化学状態をナノスケールでマッピングする技術を確立し、炭素繊維内の黒鉛微結晶のC=C結合由来のπ軌道の配向分布を可視化することに成功した。化学状態の不均一はマクロの機械的特性に大きな影響を持つと考えられる。 (3)顕微鏡ビッグデータの応用数学による解析:不均一性のかたちをマルチスケールかつ定量的に特徴付ける手法であるパーシステントホモロジー(PH)の高度化に取り組んだ。解析の対象が二次元データに限られている現行のPH法を三次元に拡張に取り組んだ。アルゴリズムの改良と計算プログラムの高度化を行い、酸化物の三次元顕微鏡データを用いて、基本的動作の確認を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CFRPのき裂進展を観察するためには、(a) 炭素繊維、(b) プラスチック、(c) 空気(き裂)という、密度が小さく互いにその値が近い3種類の材料を区別する必要がある。そのために、汎用的な吸収コントラストではなく、材料の界面を強調させるための位相イメージングを用いることにより、計画通り、き裂の進展を明瞭に観察することができ、当初の想定以上の進捗である。 その一方で、疲労サイクルの予備実験の結果、当初の想定に反し、疲労現象は数10回程度のサイクル では発生しないことが確認され、疲労観察のためには試験片形状・荷重条件等の諸条件を見直すための追加試験必要があることが判明した。そこで、仕様決定のための疲労サイクル予備実験を延長して実施する必要が生じ、そのための費用を2020FYに繰り越した。 これらから、全体として概ね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
(1) X線顕微鏡による4次元/5次元観察技術の高度化:基本手法を確立したin situ観察技術を高度化しMode I, Mode II を分離した応力印加条件での観察を実現する。これにより、CFRPのき裂の発生・進展に及ぼす応力印加条件の影響を、ナノ〜ミクロスケールで明らかにする。 (2)化学状態のマッピング観察技術の高度化:炭素材料中の炭素の化学状態、鉄系酸化物中の鉄の化学状態、をマルチスケールでマッピングする観察技術の高度化を行う。そして、ナノ~ミクロスケールでの化学状態の不均一性がマクロ特性に及ぼす因子について調べる。 (3)顕微鏡ビッグデータの応用数学による解析:不均一性のかたちをマルチスケールかつ定量的に特徴付ける手法であるパーシステントホモロジー(PH)による解析について、二次元から三次元に拡張した解析プログラムを用いて三次元顕微鏡データの解析を進める。特に、解析による特徴量(かたち)を三次元顕微鏡データ上に還元表示する機能の強化を進める。
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