研究課題/領域番号 |
19H00841
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
神谷 典穂 九州大学, 工学研究院, 教授 (50302766)
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研究分担者 |
平良 東紀 琉球大学, 農学部, 教授 (60315463)
若林 里衣 九州大学, 工学研究院, 助教 (60595148)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 脂質修飾 / タンパク質 / 両親媒性 / 架橋酵素 / 翻訳後修飾 / リポソーム / 抗真菌薬 / 相分離 |
研究実績の概要 |
本年度は、抗真菌活性を有するキチナーゼの脂質修飾による高機能化(琉球大学との共同研究)と、脂質部位の異なる部分疎水化タンパク質と人工細胞膜系を組み合わせた基礎検討(北陸先端科学技術大学院大学との共同研究)について、それぞれ進捗があった。 前者においては、キチナーゼの触媒ドメインとキチン結合ドメインを分割し、それぞれに異なるタイプの脂質を導入し、市販抗菌剤Amphotericin B(AMB)との組み合わせの効果について検討した。その結果、非常に興味深いことに、触媒ドメインよりも、キチン結合ドメインへの脂質導入において、抗真菌活性がより高まることを見出した。また、脂質修飾キチナーゼとの併用により、AMBの最小生育阻止濃度を顕著に低下させることができたことから、抗真菌薬の投与量の抑制に繋がる成果と考えている。リポソーム型製剤との併用においても顕著な抗真菌活性が確認されたことから、汎用的な抗真菌剤として利用できる可能性が示唆された。さらに、タンパク質の重合挙動の制御と、重合形態による抗真菌活性の向上も確認した。 後者においては、人工二分子膜上での脂質修飾タンパク質の局在化の検討に加え、細胞を用いた評価系を構築した。興味深いことに、人工系・天然系双方において脂質膜中のコレステロールの存在が脂質修飾タンパク質のアンカリングの鍵を握ることが明らかとなり、タンパク質の細胞内送達の可能性を示唆する成果も得られた。並行して、脂質修飾技術の汎用化を目指した応用検討として、IgG抗体Fc領域に結合する膜タンパク質の細胞外ドメインへの脂質修飾に関する基礎検討を実施し、学会発表を実施した。さらに、北九州高専との共同研究により、脂質修飾による血中半減期の向上が確認された。 以上の成果を、関連学会で発表すると共に学術論文に纏めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、タンパク質の部位特異的脂質修飾(部分疎水化)により、目的タンパク質への両親媒性の付与と、タンパク質機能に与える影響の理解を目指して検討を進めてきた。これまでの基礎研究において、脂質修飾による細胞膜への親和性の向上、抗真菌酵素のキチン結合ドメインへの脂質導入による抗真菌活性の向上、さらにはリポソーム型キャリアとの併用による高機能化において、特徴的な成果が上がっている。また、人工細胞膜を使った検討においては、脂質組成を変えることで生じる相分離構造に選択的に脂質修飾タンパク質が分配し、免疫系細胞を用いた検討から、細胞膜中に存在するコレステロールがパルミトイル基を導入したタンパク質の局在に重要な役割を担うことが共同研究を通して明らかとなった。本成果は、タンパク質の膜への局在において、なぜパルミトイル基が選択されたのか?という本質的な問いに対する理解の一助に繋がると考えられる。以上のように、3年間の基礎データの蓄積が徐々に目に見える形で結果として現れてきており、得られた複数の知見を積極的に発信できたことから、当初の計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、タンパク質への部位特異的な人工脂質分子の導入(部分疎水化)による新たなタンパク質機能の創出とその工学的価値の追求を目標として検討を進めている。本年度は、昨年度に大きく進展した2つの成果をさらに発展させる。 部位特異的脂質修飾技術の活用については、琉球大学平良教授(分担研究者)との人工脂質化キチナーゼが組み込まれた新たな抗菌システムの構築を深化する。特に、脂質部位と真菌細胞壁との相互作用の詳細、市販の抗真菌医薬品であるリポソーム製剤との融合を通して、高い抗真菌活性が発現するメカニズムに迫る。さらに、抗菌剤の種類と可溶化状態との相関、脂質部位の最適化を行い、新たな共同研究先との連携も視野に入れ、実用化に向けた基礎データの蓄積を進める。 人工二分子膜系との融合研究では、北陸先端科学技術大学院大学との共同研究を深化させる。昨年度までに得られた脂質化タンパク質の脂質部位と細胞膜の相互作用の物理化学的観点からの考察を踏まえ、細胞サイズのリポソームを用いた相分離モデル系での評価と、生細胞系での評価の融合から生まれる新たな課題を設定する。その一例として、任意の機能性タンパク質を細胞膜外ドメインとして利用可能なシステムを開発し、その工学的応用に向けた概念実証試験を実施する。
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