研究課題/領域番号 |
19H00844
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
斉藤 好昭 東北大学, 国際集積エレクトロニクス研究開発センター, 教授 (80393859)
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研究分担者 |
手束 展規 東北大学, 工学研究科, 准教授 (40323076)
池田 正二 東北大学, 国際集積エレクトロニクス研究開発センター, 教授 (90281865)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | スピントロニクス / スピン軌道トルク / 電圧制御 / ナノ構造エンジニアリング |
研究実績の概要 |
令和3年度は、令和2年度に引き続きナノ構造エンジニアリングを導入し、さらなる低抵抗化とSOTスピン反転効率の向上の両立を目指し、Pt系の新規な重金属配線の探索を行った。また、令和4年度実施予定のSOT電圧制御デバイスの評価に向け、評価装置の立ち上げを行った。以下に、令和3年度に得られたPt系の新規な重金属配線の探索の結果を具体的に示す。 (1)新規重金属配線材料である(Pt/Ir)多層膜を有するSOTデバイスを作製した。 (Pt/Ir)多層膜の比抵抗ρxx、スピンホール角|θSH|、スピン伝導度σSHを調べた結果、①(Pt/Ir)多層膜のρxxは、Pt膜に比べて低いこと、②θSHの大きさはPt膜に比べて大きなPt、Ir膜厚(tPt、tIr)領域があること、③σSHの大きさは(Pt/Ir)重金属多層膜(tPtより、(Pt/Ir)多層膜を用いることで、Pt単層膜を用いた場合に比べて消費電力を著しく低減できることが明らかになった(Phys. Rev. B 104, 064439 (2021))。 (2)(Pt/Ir)膜を用い、更なる消費電力低減が可能な新しい積層構造(Synthetic反強磁性構造)を提案した(Appl. Lett. 119, 142401 (2021))。Synthetic反強磁性構造を有するスピンHallデバイスを作製し、θSHの大きさとスピントルクの効率を評価した。その結果、θSHの大きさとスピントルクの効率はPtの2倍に向上することが明らかになり、(Pt/Ir)多層膜と比較しても、消費電力が3/4倍に低減できることが明らかになった(Phys. Rev. B 105, 054421 (2022))。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
令和3年度は、低抵抗で高効率なSOTスピン反転が可能な重金属配線を見出し、低消費電力SOTデバイスを作製する技術を構築することを目指した。探索の結果、磁気特性・電気特性ともに優れた(Pt/Ir)多層膜の新規重金属材料を見出すとともに、新しい重金属多層膜構造を提案し、材料のみならず積層構造を工夫することによっても、電流-スピン電流変換効率とスピントルクの効率を向上できることを明らかにした。本発見は、開発の新しい展開に繋がるものであり、大きな知見と言える。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度は、現在までに構築した低抵抗・重金属配線の高効率SOT磁化反転技術、および、低抵抗・重金属配線上の垂直磁化方式スピントンネル接合の成膜・デバイス作製技術を活用し、垂直磁化膜の無磁場でのSOTスピン反転技術に取り組むとともに、Gate電極を有するSOT電圧制御デバイスを作製して新規アーキテクチャ技術を構築する。前者では、膜構造のナノ構造エンジニアリングを行い、後者では、①重金属の下地層を無くす、②重金属の膜厚を薄膜化する、などの構造の改善を進める。具体的には、各層の材料・膜厚などを振った試料を作製し、構造、磁気特性を詳細に調べる。また、作製したデバイスを、令和3年度構築した電圧制御可能な電気特性評価システムを用いて評価し、電圧下でのスピンホール効果およびスピントルク特性を調べるとともに、SOT磁化反転の電圧依存性を評価する。膜構造と電圧依存性で得られたスピン反転特性との相関を調べることにより、スピン反転およびスピン伝導メカニズムの解明を行う。これらの実験を通して、垂直磁化膜の無磁場でのSOTスピン反転技術と垂直磁化方式スピンデバイスを電圧制御によりセル選択するアーキテクチャ技術の構築を目指す。
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