研究課題/領域番号 |
19H00856
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
川井 茂樹 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 先端材料解析研究拠点, グループリーダー (30716395)
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研究分担者 |
田原 一邦 明治大学, 理工学部, 専任准教授 (40432463)
久保 孝史 大阪大学, 理学研究科, 教授 (60324745)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 表面反応 / 単分子 / 原子間力顕微鏡 / 走査型トンネル顕微鏡 / 炭素ナノ構造体 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、単分子レベルの局所化学の創生と機能的な炭素ナノ構造体の合成である。近年、原子間力顕微鏡を用いて分子骨格を撮像できるようになり、表面化学の研究に大きな転機を迎えた。しかし、多彩な化学を探究するうえで、更なる展開が必要である。本研究では、単分子の励起状態と反応性を原子レベルで解明する原子間力顕微鏡の測定技術を開発する。また、分子内の特定部位に探針で操作した他の原子や分子をじかに反応させる局所合成化学を創生する。さらに、様々な炭素ナノ構造体の合成に必要な化学反応を開拓する。原子レベルで制御した機能的な炭素ナノ構造体は次世代デバイス材料に展開できると考えられ、本研究はそれを合成し評価するための学術と技術を創生する基盤研究である。 本年度では、局所化学に特化したSTM/AFM複合装置の立上げを行った。本装置の開発に向け、前年度に各部品を導入した。本年度では、クライオスタット内部に取り付けるラディエーション・シールドを開発し取りつけた。また、顕微鏡も取り付け、サンプルの搬出、光軸についてテストを行った。 また、稼働している表面化学反応に特化したSTM/AFMシステムを用いて、C-N結合を含む分子の開環反応や方向性のある表面化学反応を実現した。また、ウルマンタイプの表面化学反応で発生する臭素などのハロゲン原子を低温で除去する技術を開拓した。また、反応性の測定として、三次元構造の分子に置換されたハロゲン原子を取り除く気、そのラジカル状態を検出した。更に、励起状態の分子を測定するのに必要な絶縁薄膜上に分子を蒸着する機構を改良した。また、探針による単分子合成、表面の熱や触媒を利用した化学反応の開発や、新規化合物の合成などを行った。さらに、インターカレーション膜の有効性について検証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年4月に所属研究機関内での人事異動があり、それに伴い実験室を移転した。そのため、稼働していた極低温超高真空原子間力顕微鏡・走査型トンネル顕微鏡システムを一旦、室温・大気に戻し、解体・移設したのち、組み上げ・調整を行う必要があった。また、調整中の装置においても、同様に解体し、移設を行った。さらに、移転先の実験室では配電やヘリウム回収ラインの設置はもとより、床・壁・空調などの整備を一から行う必要があったため、本課題の実験を遂行する時間が限られてしまったのは否めない。 一方、パンデミックの影響で、予定していた出張がすべてキャンセルになり、その時間を実験・論文執筆に費やすことができた。その結果、1)探針による単分子ジイン誘導体の合成、2)新規ヘテロ[8]サーキュレンの表面合成、3)表面における複素環式化合物の開環反応、4)フラーレン分子を用いたAuSi膜の絶縁評価、5)ウルマンタイプの反応で副生成される臭素の低温除去、について論文報告した。また、表面での薗頭反応、ヘテロ空孔膜による表面準位と超原子分子軌道の干渉、表面上のブロックコオリゴマーの合成などに向けた知見を得ることができた。これらの成果は、当初の計画を大きく上回る展開であり、全体として、”おおむね順調に進展している”と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に遅延してしまった単分子化学に特化した極低温超高真空原子間力顕微鏡・走査型トンネル顕微鏡システムを立ち上げる。既に組み込んである試料搬送システムを使い、実サンプルによる性能確認を行う。 また、昨年度に大幅な進展があった表面化学反応に関する研究も、進める。本研究課題に記述した内容は大方終了しているが、グラフェンナノリボン内の磁性計測、ヘテロ元素を含んだCOF膜などの新しい研究展開を模索する。
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