研究課題
同位体ダイヤモンドナノ超格子や、ダイヤモンド薄膜、および、多層グラフェンナノ薄膜について、フォノン物性の探究およびセンサーとしてアプリケーション開拓を行なった。これらの炭素系ナノ物質においては、計測系の困難さから、熱伝導率や弾性定数等のフォノン物性における理解が十分ではない。我々の確立した、顕微ピコ秒超音波スペクトロスコピー法を用いて、これを探求した。本年度においては、多くの重要な知見を得ることができた。まず、12Cと13Cのナノダイヤモンド薄膜からなるダイヤモンド超格子薄膜を作製し、これらの含有分率が1:1となるように合成した。単位膜厚を様々に変化させて、膜厚方向の熱伝導率と弾性定数を計測したところ、熱伝導率においては、単位膜厚が薄いとき、通常理論では説明することのできない低下が見られた。一方で、弾性定数は、単位膜厚が小さい超格子ほど大きな値を示すという、直感的な理解では説明することのできない結果を得た。こういった現象において、通常の物質の超格子では影響の小さいミニウムクラップ散乱過程が生じていることを突き止めた。これは、デバイ温度の極めて高いダイヤモンドにおいては、室温においても十分物質としては低温域であり、超格子構造に起因するウムクラップ散乱が無視できなくなるためであることを示した。また、ダイヤモンド自立薄膜において、通常では起こり得ないフォノンとフォトンの相互作用が起こり、ブリルアン振動という現象を制御することに成功した。ブリルアン振動は、自立薄膜においてはノイズの源となる場合があり、例えば、センサーへの用途においては、消滅させたい現象であるが、これまでは、これを抑制することが困難であった。本研究にて考案した手法により、ブリルアン振動を制御し抑制することに成功し、実際に、ダイヤモンド自立膜振動子をバイオセンサーに用いて、標的タンパク質いの高感度検出に成功した。
1: 当初の計画以上に進展している
同位体ダイヤモンド超格子の作製において、従来の純度を2桁上回る合成法を確立させ、また、微小領域において正確にフォノン計測を可能とする顕微ピコ秒超音波スペクトロスコピー法をほぼ実用レベルまで確立した。さらに、2つのリファレンス試料を用いることにより、ナノ薄膜試料の熱伝導率を簡便かつ正確に計測する手法も考案した。これらの計測法および解析法を用いて、ホモエピタキシャルダイヤモンド超格子の奇異なフォノン物性の観測に成功し、かつ、そのメカニズムの解明にも成功した。さらに、炭素ナノ薄膜を用いたアプリケーション開拓においては、ブリルアン振動というノイズ源を抑制する必要があったが、従来ではこれの課題を解決することができなかった。本研究においては、自立薄膜のノイズの源となるブリルアン振動を制御し抑制する新たな手法を見出すことに成功し、実際に、ダイヤモンド自立膜振動子をバイオセンサーに用いて、標的タンパク質いの高感度検出に成功した。この検出感度は、現存の最も検出感度の高い振動子バイオセンサーよりも50倍以上の感度を示すことがわかった。以上のように、材料合成法、計測法、解析法、アプリケーションのいずれにおいても、大きく進展している。
引き続き、ナノダイヤモンド薄膜超格子の弾性定数および熱伝導率の研究を探求し、理論解析法においても進展せ、その本質を理解することに尽力する。また、自立薄膜を用いたセンサー等のアプリケーション開拓をさらに拡大し、本研究成果の社会実装も視野に入れて研究を進める。
すべて 2022 2021
すべて 雑誌論文 (17件) (うち査読あり 16件) 学会発表 (15件) (うち国際学会 7件、 招待講演 1件) 図書 (2件)
Appl. Phys. Lett.
巻: 120 ページ: 112203
10.1063/5.0087648
Japanese Journal of Applied Physics
巻: 61 ページ: SG1007~SG1007
10.35848/1347-4065/ac4a04
巻: 61 ページ: SG1004~SG1004
10.35848/1347-4065/ac4304
Journal of Applied Physics
巻: 131 ページ: 015103~015103
10.1063/5.0075585
Nanoscale Advances
巻: 4 ページ: 117~124
10.1039/D1NA00272D
Physical Review B
巻: 104 ページ: 2Pb1-2
10.1103/PhysRevB.104.054112
Proceedings of Symposium on Ultrasonic Electronics
巻: 42 ページ: 2Pb1-2
巻: 42 ページ: 1Pa1-5
巻: 42 ページ: 1Pb2-3
巻: 42 ページ: 3Pa2-2
巻: 42 ページ: 2Pa1-2
巻: 42 ページ: 2E5-1
巻: 42 ページ: 1Pb1-3
Physics Letters A
巻: 408 ページ: 127462~127462
10.1016/j.physleta.2021.127462
Applied Physics Express
巻: 14 ページ: 121005~121005
10.35848/1882-0786/ac3b9d
Journal of the Physical Society of Japan
巻: 90 ページ: 094707~094707
10.7566/JPSJ.90.094707
巻: 90 ページ: 054705~054705
10.7566/JPSJ.90.054705