研究課題/領域番号 |
19H00864
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
安藤 和也 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 准教授 (30579610)
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研究分担者 |
望月 維人 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (80450419)
史 蹟 東京工業大学, 物質理工学院, 教授 (70293123)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | スピントロニクス |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、酸化により発現するスピン軌道物性の開拓により、バルク・界面を包括するスピン軌道エレクトロニクスを体系的することである。金属酸化の著しい特長は電子伝導の劇的変化にあり、バルクスピン軌道物性が支配的となる金属から、ヘテロ界面スピン軌道物性のみが現れる絶縁体に及ぶまで、極めて広範囲のバルク・界面電子状態を酸化のみによって制御可能できる。本年度は、強い界面スピン軌道相互作用が期待できる酸化Pdを用いることで、強磁性金属/酸化Pd構造におけるスピン流変換効率をバルク効果が支配的となる金属から界面効果が支配的となる絶縁体領域まで系統的に調べた。この結果、酸化Pdではスピン軌道トルク効率が酸化レベルに対して単調に減少することが明らかになり、酸化によりスピン軌道トルク効率が増大する酸化Ptと全く異なる振る舞いを示すことが明らかになった。一方、スピン軌道相互作用の弱いCuにおいて、強磁性金属/Cu界面酸化レベルの精密な制御により、界面スピン軌道トルク効率が最大化されることが明らかとなった。本現象は、界面スピン流変換における界面波動関数の非対称性の重要性を明らかにしたものであり、物質選択以上に酸化レベルの制御が高いスピン流変換効率実現に重要となることが見出された。また、自然酸化Cuで見出されたスピン軌道トルクの劇的増大現象の起源を明らかにするため、酸化CuをドープしたAuにおけるスピン流変換を調べた結果、自然酸化銅におけるスピン軌道トルク生成は、酸化に特有なスピン依存散乱によるものではないことを見出した。この結果は、弱反局在効果から見積もった酸化Cuにおけるスピン軌道相互作用の振る舞いとも整合しており、自然酸化Cuではスピン軌道相互作用によらない、非従来型の機構によって効果的なスピン流変換が実現されていることがが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究により、強磁性/酸化物界面におけるスピン流変換は界面酸化レベルにきわめて敏感であることが明らかになり、界面波動関数の非対称性に注目した酸素レベルの精密制御によるスピントロニクス素子性能最大化の設計指針が初めて明らかになった。これは、スピン軌道相互作用の強い重金属のみならず、非常に広範囲の物質がスピン流変換現象の舞台となることを示すものである。さらに、自然酸化Cuにおいて実現されるPtと同程度のきわめて高い効率のスピン流変換がスピン軌道相互作用によらないというこれまでの結果は、スピン流変換にはスピン軌道相互作用が必須であるというこれまでのスピントロニクスでは予想されていなかった結果であり、本現象の詳細な詳細なメカニズム解明により、スピン軌道相互作用を経由しないスピン流物性の新領域を切り拓くことができる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究結果を念頭に、強磁性金属/酸化物界面のスピン流変換に加え、酸化物バルクにおけるスピン流変換を測定する。第一のターゲットはスピントロニクスの中心物質であるPtであり、酸化Ptによるバルクスピンホール効果の酸化度レベル依存性を測定し、広範囲の抵抗率に対するスピンホール伝導度のスケーリングを明らかにする。また、自然酸化Cuに関しては引き続き系統的な測定を進める。具体的には、自然酸化Cuにより生成されるスピン軌道トルクの自然酸化Cu膜厚依存性、強磁性層依存性を明らかにする。これにより、非従来型の機構により実現されるスピン流変換の全体像が明らかになる。これをもとに酸化により実現されるスピン流変換効率劇的増大の起源解明を目指す。
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