研究課題/領域番号 |
19H00865
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研究機関 | 分子科学研究所 |
研究代表者 |
杉本 敏樹 分子科学研究所, 物質分子科学研究領域, 准教授 (00630782)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 極微分光法 / レーザー分光法 / 非線形分光法 / 水素結合 |
研究実績の概要 |
我々の身近に偏在する水分子は種々の物質表面に凝集し,しばしばバルクの水とは異なる 誘電特性や電荷移動特性,酸化還元特性を創発させる.固体表面の水素結合ネットワークにおける水素の局所配置は水分子凝集系の機能創発に関わる本質的に重要な構造情報である.しかし,水素は最も軽く電子数が最も少ない元素であるため,X線や電子線,走査トンネル顕微鏡等を用いた既存の表面科学的手法では表面水素結合ネットワーク中の水素の局所構造を解明することは不可能である.そこで本研究では,和周波顕微分光法を金属・酸化物のモデル表面上の水分子凝集系に応用し,水素結合ネットワーク中の水分子の水素の構造を解明することを目的とした極微分光計測法を実現するために,以下の研究に取り組んだ. ○極微金属探針の開発(作製・評価・改良):三端子電極を用いた金属の電気化学エッチングを行った.ワーキング電極の浸水深さや溶液濃度,エッチング電圧を系統的に検討することによって,Au細線の先端を曲率半径50 nmの精度で再現性よく作製する事に成功した.さらに,真空装置内で電界印加イオンスパッタリングを行い,探針先端の曲率半径を10 nm以下の精度で再現性よく加工する事にも成功した. ○STM装置内外部の光学系構築:当グループに現有のSTM装置(USM1400,ユニソク製)をベースとして,極微非線形振動分光計測のための光学系を構築する事を完了させることができた.この測定システムを用いて,ラマンスペクトルの測定や原子分解能STM像の取得にも成功した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初は曲率半径10nm以下を実現するには収束イオンビーム(FIB)による加工が必要と想定していた.しかし,本研究によって,三端子法による電気化学エッチングに加えて電界印加イオンスパッタリング法を系統的に行うことにより,FIB加工を用いる必要なく探針先端の曲率半径が10 nm以下のAu探針を高い再現性で作製することに成功している. これにより,FIB加工のプロセスを省くことができ,局在プラズモンと結合した表面系を対象としたχ(2)の位相決定法をいち早く確立し、顕微SFG分光測定を実現する糸口をつかむことができた.
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今後の研究の推進方策 |
SFG過程は二次非線形感受率χ(2)に支配され,赤外パルス光電場と可視パルス光電場が時間的・空間的に重ね合わさった際に誘起される.“ 分子振動による赤外吸収過程”と“可視光に 誘起されるアンチストークスラマン散乱過程”から成るコヒーレントな過程である.入射赤外光のエネルギーが分子振動励起に必要なエネルギーと共鳴する際にこのSFG強度が増幅するため,SFG光の強度分布を入射赤外光のエネルギー(波数)の関数として計測することで顕微振動分光を行う.また,SFG光のヘテロダイン検出で得られる“二次(偶数次)の非線形感受率の虚部Imχ (2)”は水分子のOH振動子の配向角θに対して方向余弦の奇数次(cosθと cos3θ)に比例するため,H-up配置(0≦θ <π /2)では正の値をとり,H-down配置(π/2<θ≦π)では 負の値をとる,という特徴を有する.この性質を利用し,顕微Imχ(2)スペクトルの符号から, 水素結合ネットワークにおける異方的な水素配置の有無とその向きを調べる. 昨年度は、レーザーシステムを導入することに成功し、さらに極微空間分解能を実現させるための金属探針の作製にも成功した。本年度は,これらの要素技術を組み合わせて局在プラズモンと結合した表面系を対象としたχ(2)の位相決定法を確立し、顕微SFG分光測定に着手する.水分子吸着系二加えて,SFG強度が強く分子配向が既知のCO吸着系を用いた顕微SFG分光測定の原理実証実験も実施する.
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