研究課題/領域番号 |
19H00866
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
若山 裕 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点, 副拠点長 (00354332)
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研究分担者 |
森山 悟士 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点, 主任研究員 (00415324)
早川 竜馬 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点, 主任研究員 (90469768)
赤池 幸紀 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 主任研究員 (90581695)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 負性抵抗 / 多値演算 / 有機半導体 / ヘテロ界面 |
研究実績の概要 |
まず負性抵抗トランジスタの低電圧駆動化に取り組んだ。ここでは、高誘電率ゲート絶縁膜や電荷注入層を適宜素子の中に組み入れることにより、当初数10V必要だった駆動電圧が1/10程度に低減することができた。最も重要な構成材料である有機半導体材料については、高結晶性の薄膜形成と電荷の高い電界移動度を両立するp型・n型有機半導体を採用することにより、再現性の高い安定な動作が実現できた。これら想定通りの進捗が見られた一方で、モデル計算による素子動作の解析、三値の出力バランス、フレキシブル基板上での動作実証などの研究項目で、想定以上の大きな進捗が見られた。まずモデル計算による動作解析においては、トランジスタチャネルを形成しているp型・n型それぞれの有機半導体層のチャネル長により、三値演算の出力バランスが制御できることがわかった。これは素子構造を設計する明確な指針を与えるものである。三値の出力バランスについては、pnヘテロ界面の構成を最適化することにより、大きく改善することができた。特に電極の配置を最適化することにより達成できた。フレキシブル基板上での動作においては、プラスチック基板上で三値演算を動作させるために適切な絶縁性高分子材料をゲート絶縁層として用いることが必須となる。PMMAやサイトップなどを用いることによりこれを実現した。再現性や耐久性に課題が残るものの、柔軟性と計算機能を両立する第一歩の成果として意義が大きい。以上のように、各項目で着実な進捗が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
概要で記述したとおり、いくつかの研究項目で着実な進捗が見られた一方で、いくつかの項目については想定していた以上の(あるいは想定とは大きく異なる)成果が得られた。まず素子の動作原理の解明のため実施したモデル計算では、電荷の移動経路について、それぞれの半導体薄膜の端面が接合したヘテロ界面を電荷が通過することを示唆する結果が得られた。当初の想定とは異なる意外な発見であるが、計画していた素子設計や材料選択に明確な指針を与えるものであり、貴重な知見となる。続いて、入力電圧と出力電圧が一致する「フルスイング動作」が達成できた。これは駆動電圧の低減や三値の出力バランスの改善を目指して素子構成を工夫している過程で見出されたものである。これまでは入力電圧の最大値に比べて、出力電圧の最大値が著しく低下する現象が見られたが、これらの最大値が一致するフルスイング動作が実現できた。なおpnヘテロ接合界面があることから、光起電力が期待でき、その結果、ドレイン電圧の低減が可能になるものと想定して光照射効果について検討した。その結果、これまでの実験から、光照射による光キャリアが生成されることや、特に少数電荷が電極-半導体界面に蓄積されることなどが、素子特性に影響することが見出された。これは三値の出力特性を光によって精密に制御できることを示唆するものである。電圧だけでなく光により動作制御できることを意味し、新しい機能性探索の指針を与える成果と言える。
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今後の研究の推進方策 |
負性抵抗トランジスタおよび三値演算機能の動作メカニズムの解明、フレキシブル基板上での安定動作、光機能との融合などの課題に取り組む。動作メカニズムの解明については、特に素子が動作するような電圧印加状態で、計測するオペランド解析に注力する。具体的にはゲート・ドレイン電圧を印加している状態で、表面電位の空間分布を計測するオペランドケルビンプローブ顕微鏡解析、ドレイン電圧の分布を計測するオペランド電圧分布解析、電子状態や電荷密度の空間的・時間的分布を計測するオペランド光電子顕微鏡解析などを計画している。これらの解析により電荷移動の経路、素子特性の支配因子、素子特性向上の指針などを明確にする。続いてフレキシブル基板上での安定動作については、ゲート絶縁膜の最適化が大きなカギを握る。柔軟性の観点から絶縁性高分子を選択しているが、低電圧駆動や安定的なゲート電圧印加の観点からHfO2などの高誘電率絶縁膜を採用する予定。最後に光機能の探索に取り組む。pnヘテロ接合界面があることから、光起電力が期待でき、その結果、ドレイン電圧の低減が可能になるものと想定していた。しかしこれまでの予備実験から、光照射による光キャリアが生成されることや、特に少数電荷が電極-半導体界面に蓄積されることなどから、三値の出力特性を精密に制御できることがわかりつつある。この最適化と機構解明に取り組むため、光の波長や強度を系統的に変化させて動作原理の解明に繋げていく。
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