研究課題/領域番号 |
19H00867
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
石橋 幸治 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 主任研究員 (30211048)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | トポロジカル絶縁体超伝導体接合 / ジョセフソン接合 / アンドレーエフ反射 / ヘリカルチャネル / 半導体ナノワイア / 2次元トポロジカル絶縁体 |
研究実績の概要 |
本研究ではトポロジカルな電気伝導チャネル(ヘリカルチャネル)を正常(N)領域として有するジョセフソン接合を形成するプロセスを開発し、その超伝導特性より接合内に形成される束縛状態を調べる。本年度は、以下について接合プロセスの開発を試みた。 1)半導体ナノワイアとAl超伝導体の接合 2)WTe2薄膜への超伝導接合 1)については、1次元的かつスピン軌道相互作用の強い半導体ナノワイアに磁場を印可することによりヘリカルチャネルを形成する。N領域に束縛状態を有する良好なジョセフソン接合を形成するためには急峻な半導体・超伝導体界面が必要である。そのために、分子線エピタキシー法でInAsナノワイアを成長し、そのまま真空を破ることなく、Alをエピタキシャルに成長する技術が共同研究先のドイツ・ユーリッヒ研究所により開発された。理研の本グループではそのナノワイアを用いてジョセフソン接合を作製し、その基本特性を調べた。その結果、直流超伝導電流を観測することができたのに加えて、マイクロ波応答に特徴的なシャピロステップを観測することができた。これらのことから、急峻な半導体・超伝導体界面を有する接合が形成され、アンドレーエフ反射確率が高い”ハードギャップ”が半導体内に形成されたといえる。 2)では、2次元トポロジカル絶縁体の周囲に形成される1次元的なヘリカルエッジチャネルを利用する。しかし、WTe2は空気中に触れると容易に劣化するため、ジョセフソン接合の形成には、空気に触れないデバイス作製プロセス開発環境を整備し、開発を開始した。超伝導電流を得るには低いコンタクト抵抗が必要であるが、今回は、多層WTe2薄膜において超伝導電流が流れるプロセスを確立することができ、ジョセフソン接合特性を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、1元的なヘリカルチャネルへ超伝導を誘起することによりジョセフソン接合を形成する。それにより、アンドレーエフ束縛状態、さらにはマヨラナ束縛状態の形成を調べることが可能となる。本研究での困難は、半導体ナノワイアやトポロジカル絶縁体など新しい物質・材料を用いたジョセフソン接合を形成するデバイスプロセスの開発である。半導体ナノワイアにおいては、アンドレーエフおおびマヨラナ束縛状態の形成の必須条件である”ハードギャップ”の形成を示すことができた。WTe2薄膜では多層のものにおいてジョセフソン接合を形成することができたが、単層のものが2次元トポロジカル絶縁体であるため、引き続き単層を用いたジョセフソン接合の実現が必要である。多層で得られた様々なプロセス技術に関する成果やノウハウは、単層を用いたプロセスへもつながるものと期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
アンドレーエフ束縛状態とマヨラナ束縛状態を調べる系として、1次元的なヘリカルチャネルに超伝導を誘起したジョセフソン接合の形成が必須である。半導体ナノワイアにおいては、第1関門であるハードギャップを形成することができた。今後は、磁場を誘起することによりヘリカルチャネルを形成し、束縛状態を観測することを目指す。そのために、これまで開発を行ってきたジョセフソン接合を含むRFSQUIDを形成し共振器との結合を利用したマイクロ波分光法を利用する。 単層WTe2薄膜を用いたジョセフソン接合の形成においては、多層で培ったノウハウをもとに接合形成プロセスを確立する。この場合は、ヘリカルチャネルの形成に磁場を必要としない。ゲート電圧印可によりバルク絶縁体ギャップ内にフェルミ準位をセットする技術の開発が必要である。フェルミ準位の位置により束縛状態がどのように変化するのかを見ることが研究の山場となる。それを、ジョセフソン接合特性やマイクロ波分光法により明らかにする。
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