本研究は、生体試料計測に特化した先端増強ラマン顕微鏡の開発を主たる目的としている。ナノメートルの空間分解能で生体試料を詳細にラマンイメージングできるようになれば、これまで未解明だったさまざまな生命現象を可視化できるようになる。 昨年度は、主に超高安定・長時間で先端増強ラマンイメージングできる装置を開発・応用し、生体応用への重要な進捗を示すことができた。 本年度は、金属探針の制御方法について、生体応用を見据えた装置開発を行った。通常、先端増強ラマン顕微鏡では金属探針を制御する際にコンタクトモードが用いられる。しかし、柔らかい生体試料に対しては、しばしばダメージを与える原因となっていた。そこで、タッピングモードの生体計測応用を検討した。タッピングモードは、金属探針が試料に触れていない時間が長いため、一般的に先端増強ラマン散乱強度が著しく低下する。そこで、タッピングモードのタッピング振幅を制御・最適化することによって、生体計測への可能性を検討した。様々なタッピング振幅で先端増強ラマン計測を行った結果、振幅を数ナノメートルレベルまで下げることによって、コンタクトモードの場合とほぼ遜色ないラマン散乱強度が得られることを見出した。数値計算的にも妥当性を検証し、計算・実験の両面から有効性を立証することに成功した。さらに、アミロイド繊維の先端増強ラマン散乱計測を行い、バイオ試料でも計測が可能であることを確認した。
|