研究課題/領域番号 |
19H00873
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
田邉 孝純 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (40393805)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 微小光共振器 / 光周波数コム / 光エレクトロニクス / 非線形工学 |
研究実績の概要 |
微小光共振器を用いた光周波数コム光源開発において,超精密加工によるMgF2共振器の開発と,ウィスパリングギャラリーモード共振器へのシリコンチップとの高効率な光結合方式の2点に取り組んだ.前者は,切削条件の改良によってQ値の向上を実現し,10^8を超える値を実現した.その過程にて,MgF2やCaF2の切削条件を詳細に明らかとした.さらに,MgF2共振器を用いてソリトンパルスの発生を実現し,MgF2共振器におけるソリトン光コムと変調不安定光コムの比較検討を行い,後者の光コムで通信に必要となるチャネル当たりの高強度光が得られることを明らかにした.後者は,超高Q値が得られるが低屈折率材料からなるウィスパリングギャラリーモード光共振器との高い結合が,フォトニック結晶導波路を用いると実現できることを示した.ポイントはフォトニック結晶導波路では,位相屈折率と群屈折率を自由に設計できるため,従来では高い効率での結合が不可能な,低屈折率材料からなるウィスパリングギャラリーモード共振器との結合が実現した.これはウィスパリングギャラリーモード共振器とシリコンフォトニクスの融合を進める成果である. 次に,エルビウム添加背景光フリー超高繰り返し自励光パルス源開発においては,本年度はErドープ共振器でのCW発振を実現し,カーボンナノチューブによる過飽和吸収特性の確認を実験的に行った.さらに,理論計算を行うことで,モードロックに必要な条件を理論的に明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
切削加工のみで高Q値微小光共振器を実現した成果は世界初であり,共振器の分散,共鳴波長や,自由スペクトル領域を設計可能となれば,光周波数コム応用のみだけでなく,高Q値微小光共振器をプラットフォームとする,非線形工学や量子工学においても大きな波及効果がある. 一方で,エルビウム添加背景光フリー超高繰り返し自励光パルス源開発においては,本年度はErドープ共振器でのCW発振を当初の予定通り実現し,次年度以降にパルスレーザ開発に取り組むことができる. フォトニック結晶とウィスパリングギャラリーモード共振器のハイブリッド結合も,この2つの領域を融合する可能性があり,様々な展開が期待される. このように,本年度は年度当初に予定していた成果を中心としつつも,今後の研究を拡げる可能性を感じさせる成果を多数上げることができており,おおむね順調に進展していると判断できる.
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今後の研究の推進方策 |
MgF2共振器とSiN共振器をそれぞれ用いて,光周波数コムを発生し,ソリトン光コムや変調不安定光コムそれぞれの特徴や,共振器プラットフォームによるそれぞれの特徴を比較検討しながら明らかとする.具体的には,これらの共振器で得られた光周波数コムを光伝送実験に用いて,微小光共振器による光周波数コムの特徴を議論したいので,得られた光コムのSN,パワーレベル,線幅,位相ノイズなどの特徴を理論的にも実験的にも明らかにする必要がある. 一方で,エルビウムドープ微小光共振器によるモードロックパルスの実現では,昨年度までに,モードロックを現在の物理パラメータの範囲で実現するためには,ややサイズの大きな微小光共振器を用いる必要が明らかとなったので,その領域に適した微小光共振器を作製する.大きな直径のトロイド微小光共振器では,Erドープガラスの膜厚を厚くしないと応力ひずみの影響で共振器が変形し高いQ値が得られないので,今期の優先課題はいかに膜の厚いErドープガラスをゾルゲル法で実現する方法の開発となる. また,シリコンフォトニクスとの融合を目指した,フォトニック結晶とウィスパリングギャラリーモード共振器の結合に関しては,フォトニック結晶共振器との結合実験を開始する.
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