研究課題/領域番号 |
19H00875
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
宮崎 英樹 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 機能性材料研究拠点, グループリーダー (10262114)
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研究分担者 |
神馬 洋司 日本大学, 工学部, 准教授 (00246844)
間野 高明 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 機能性材料研究拠点, 主幹研究員 (60391215)
野田 武司 国立研究開発法人物質・材料研究機構, エネルギー・環境材料研究拠点, 上席研究員 (90251462)
井上 純一 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点, 主幹研究員 (90323427)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | メタマテリアル / 光アンテナ / トンネル発光 / 赤外光源 |
研究実績の概要 |
本研究では、共鳴トンネル構造を独自の光アンテナ構造に挟み込んだ「共鳴量子アンテナ光源」を開発し、熱放射光源を代しうる新原理赤外光源を実現することを目指している。 本年度はまず、前年度に導入していたクライオスタット用の光学系の確立を進めた。また一方で、共鳴トンネル構造に組み合わせた広い範囲で共鳴波長が様々に異なる多数の光アンテナを作製した。材料系として、共鳴トンネル構造にはGaAs/AlGaAs、光アンテナにはストライプ型のAuを用いた。様々な温度での電流-電圧特性から、共鳴トンネル効果は低温に限らず室温でも発生することが確認できた。まず、予備的に室温での発光を測定したところ、共鳴トンネルの起こっている電圧において赤外光が放射され、その波長が光アンテナの共鳴波長に合致していることを確認した。しかし、どの波長に合わせた光アンテナでも同様に発光することから、観察しているのは共鳴トンネル電流によるジュール熱による熱放射を観測しているものと判断された。 そこで導入したクライオスタットにて到達できる最低温度である3Kという低温での同様の発光特性を調べた。その結果、これほどの低温でも電圧に対応した赤外発光を観測できた。特に波長4.7μmに合わせて設計したアンテナの発光は明瞭であった。3Kまで冷却した状態で局所的とはいえ、4.7μmの熱放射が顕著になる室温付近まで温度が上昇していたとは考えられず、このときに観測したのは熱放射ではなく、トンネル発光を確かに捉えたものと思われる。ただし、特定のバイアス電圧で鋭く発光するのではなく、トンネル電流が流れている間は常に発光が見られたことから、これは過去にも報告のある単なるトンネル発光であり、本研究で世界初の観測を目指している「共鳴」トンネル発光ではない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度の当初計画では、世界初の共鳴トンネル発光の観測を目指していた。今回、共鳴トンネル構造、様々な共鳴波長に対応した光アンテナ、クライオスタットにおける光学測定、という目指していた個々の要素はすべて揃い、また、最低限到達すべきであった非共鳴トンネル発光の観測まで実現したが、最低限の目標を達成しただけに留まった。本来は、共鳴トンネル発光を観測した上で、電極金属界面から共鳴トンネル構造までをどのように接続するかという層構造設計、トンネル共鳴準位をどのくらいのエネルギー位置に設定すべきかという量子準位設計、必要に応じてはGaAs系以外の材料系を検討するところまでを目指してきた。従って、やや遅れていると評価するしかない。本年度、量子井戸構造の設計から分子線エピタキシー法による結晶成長までのサイクルを例年以上に繰り返し、計算における使用物性パラメータの選定、成長における膜厚・組成精度の向上に力を注いだが、改良に終始し、実際に新しい層構造の試作にまで進めなかったのが最大の理由である。しかし、今後、新しい層構造を高精度に試作するための準備はほぼ整ったものと評価している。
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今後の研究の推進方策 |
計画には特に変更はない。試料についてはほぼ整った結晶設計・成長環境において、電極金属界面から共鳴トンネル構造までを接続する層構造、トンネル共鳴準位をどのくらいのエネルギー位置に設定すべきかという量子準位について、設計から評価までのサイクルをできる限り繰り返すこと、光学系については、熱放射とトンネル発光を明瞭に分離するための高速変調法の導入なども検討し、共鳴トンネル発光の観測に向けて試行錯誤を繰り返していく。今回、トンネル発光までは観測できたことから、大きな材料系の変更は必要ないと判断している。その上で、次年度内に、具体的な応用を想定した光源の試作にまで進むことを目指している。想定しているのは、波長3.95μmと4.26μmの2波長光源である。これによりCO2濃度計測が可能になる。この応用対象はニーズが大きいことと、比較対象の光源(研究代表者自身が過去に開発した熱放射アンテナ光源や市販のLED)が揃っている点が利点である。
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