研究課題
令和2年度は、本研究の検討項目のうち、主に1)様々な組成のマグネシウムシリケート水和物(M-S-H)の合成とキャラクタリゼーション、2)分光学的手法および分子動力学的計算による構造推定、3)M-S-H生成の地球化学反応モデリングによる再現を実施した。その結果、以下のことが明らかとなった。1)様々な組成のM-S-Hを異なるpHで合成したところ、中性(pH7)ではその生成が認められず、固相として確認できたのは非晶質シリカのみで、アルカリ領域でのみM-S-Hの生成(一部スメクタイトと考えられる相も確認)が確認された。令和元年度に明らかにした赤岩青巖峡で認められたM-S-H(蛇紋石様)とフィリピンNara地区で認められたM-S-H(スメクタイト様)の違いは、その生成pHやMg/Siの違いを反映したものである可能性が示された。2)合成したM-S-Hを本研究でレンタルしているラマン分光装置や核磁気共鳴装置で分析したところ、M-S-Hの構造はその組成に応じてMgケイ酸塩鉱物であるタルクや蛇紋石と類似の構造を有することが判明した。3)令和元年度で実施した合成M-S-Hや天然で認められたM-S-Hの生成は、すでに出版されている熱力学データで説明可能であることが判明した。これらモデリングの結果から、高アルカリ性で溶存シリカ濃度が高い環境ではMgはM-S-Hとして沈殿するのが優勢で、炭酸塩として沈殿する領域が非常に狭いことも明らかとなった。これは、二酸化炭素の地中貯留の鉱物化を考える上で、非常に重要な知見であると考えられるので、次年度以降により詳細に検討していく予定である。
2: おおむね順調に進展している
実施している内容に関しては、コロナ禍のため天然に産するM-S-Hの探査と現地調査ができなかったこと以外はほぼ予定通りに進んでいる。ただし、2つの天然サイトで認められたマグネシウムシリケート水和物(M-S-H)の生成とそのキャラクタリゼーションに関しては、令和2年度にオープンアクセスが可能な国際誌に出版され、関係者には大きなインパクトを与えるものとなった。したがって、新規の天然産M-S-Hに関しては新たなサイトを発見できていないが、当初の計画以上に進展しているものと判断できる。また、広報のために設置を予定していたホームページも本年度中に公表に至った。それ以外については、他の研究内容も含め、全体的にはおおむね順調に進展していると判断した。
本年度明らかにされたように、核磁気共鳴やラマン分光により、M-S-Hの構造がMgケイ酸塩のタルクや蛇紋石と類似であったが、天然においてはMgと同じ価数でイオン半径も類似の二価鉄が共存する場合がある。その場合でもM-S-Hの生成条件や構造等の理解が本研究で明らかにされてきたもので十分かどうか検討する必要性が出てきた。そのため、令和3年度では、二価鉄が含まれる系でもMg同様に検討を進めていきたい。
すべて 2020 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 4件) 備考 (1件)
Clay Science
巻: 24 ページ: 1-13
10.11362/jcssjclayscience.24.1_1
Minerals
巻: 10 ページ: 719
10.3390/min10080719
http://eg-hokudai.com/19h00878/