研究課題/領域番号 |
19H00879
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
石井 慶造 東北大学, サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター, 研究教授 (00134065)
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研究分担者 |
寺川 貴樹 東北大学, サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター, 教授 (10250854)
人見 啓太朗 東北大学, 工学研究科, 准教授 (60382660)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 放射線工学 / ビーム科学 / ストロンチウム90 / ベータ線 / 飛程 / 比例計数管 |
研究実績の概要 |
本研究では、高放射線場の野外において簡易に90Srの比放射能を測定できるβ線の計測に基づいた方法を開発し、福島県の帰還困難地域の早期復帰に向けての90Srに対する安全性の調査に応用することを目的とし、5段階(令和元年度~5年度)で研究目的を達成する。第一段階(平成31年4月、令和元年5月~令和2年3月)では、2連の比例計数管のβ線検出システムの製作を行い、90Srからの連続のエネルギーを持ったベータ線が、比例計数管のエネルギースペクトル上では単色のエネルギースペクトルとなることを用いたβ線検出器を開発し、この成果を応用物理学会の放射線分科会誌Ionizing Radiation、Vol.45, No.3, p116-p121, 2020に発表した。これを基に、90Sr汚染検査システムを合計4台製作した。第2段階(令和2年4月~令和3年9月)では、2連の比例計数管をプラスチックシンチレータで覆い、比例計数管がこれと同時計数した場合、比例計数管からの信号を除外するシステムを製作した。2連の比例計数管2式を向かい合わせることにより、4π検出器システムを制作した。第3段階(令和3年4月~令和4年9月)では、この4π検出システムの性能評価を行い、検出限界値のある程度の向上を得た。第4段階(令和4年4月~令和5年9月、予定していた国際会議の開催地イタリアのCOVID-19が悪化したため、計画を令和5年度に繰り越している。)プラスチックシンチレータとの反同時計数によるミュー粒子のイベントの除去が不十分なことが判明し、筐体の構造を改良し、検出限界値を下げることができた。令和5年9月28日にフランス原子力庁、気候学・環境科学研究所(LSCE)において、福島県の放射線汚染対応に関する研究とSr90検出器に関する上記研究成果について講演を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
プラスチックシンチレータと比例計数管との反同時計数によって、ミュー粒子のイベントが完全に除去されていないことが分った。これは、光を受けるセンサーMPPC(6mm×6mm)をプラスチックシンチレータの9箇所に取り付け、それらからの信号を受ける前置増幅器、波形整形アンプ、50Vバイアス電源を載せた電気回路基盤を支持するために、プラスチックシンチレータに5mmφのネジ穴を4箇所空けてあったことが、ピンホール効果によってミュー粒子がプラスチックシンチレータで検出されることなく2連の比例計数管に入射し、同時計数が得られたものと判断された。そこで、プラスチックシンチレータに穴を空けることなく、電気回路基盤を筐体に取り付けるように工夫した。この結果、100gの試料の30分間測定での検出限界値が36Bq/kgから16Bq/kgに向上させることができた。本装置を用いて、南相馬市小高区の帰還困難地域に近い山野の渓流で捕獲したヤマメの肉、骨を測定したところ、90Srの比放射能は、検出限界値以下であった。このように、帰還困難地域の渓流での山魚の90Srに対する安全性が本装置を用いて調べることが可能となった。 本研究の成果を海外の研究者に広く発表するこころみは、COVID-19の世界的拡大により遅れてしまった。COVID-19が下火になった令和5年9月28、29日にフランス原子力庁・気候学・環境科学研究所(LSCE)に出向き、福島の放射線汚染対応及び90Sr検出器に関する研究についてPlivier Evrard主任研究員のグループ11名に対して講演を行った。また、LSCE側の研究者3名から福島県の湖底の堆積土の汚染の研究について報告を聞いた。同主任研究員は福島の湖底の放射能調査研究をかなり精力的に研究しているとのことで、今後、研究交流を行うこととした。
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今後の研究の推進方策 |
[1]帰還困難地域での90Srの汚染調査 帰還困難地域での植物、昆虫、山魚、土壌を採取し、90Sr測定装置で汚染度を調べる。 その結果を纏めて、安全マップを作成する。
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