研究課題/領域番号 |
19H00886
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
芥川 智行 東北大学, 多元物質科学研究所, 教授 (60271631)
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研究分担者 |
綱島 亮 山口大学, 大学院創成科学研究科, 准教授 (70466431)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 強誘電体 / 強弾性体 / 分子集合体 / イオン変位 / ダイナミクス / メモリスタ / アルキルアミド |
研究実績の概要 |
分子ダイナミクスが共存する分子集合体の分子物性化学の概念を確立するため、プロトン・イオン・分子の運動とバルク分子強物性をつなぐ分子間相互作用を理解し、デバイス応用につなげる事を研究目的とした。分子強物性として、電場-分極ヒステリシス(P-E)に支配される強誘電体、応力-歪みヒステリシス(F-D)による強弾性体、およびイオン変位-電流ヒステリシス(I-V)を示すメモリスタに着目した研究を実施する。それぞれの分子強物性に対して、外部刺激である電場や応力に対する出力である双極子反転・ドメイン運動・イオン分極を分子論的に理解し、その分子設計指針の確立を目指した研究を実施した。本年度は、電場-分極ヒステリシス(P-E)に支配される強誘電体に関する検討を中心として、イオン変位型の1次元分極反転システムと3次元分極反転システムに関する顕著な研究成果を挙げた。1次元系としてイオンチャネル構造を含むクラウンエーテル誘導体と強誘電性ベンゼントリアミド誘導体との混晶の開発に成功した。研究成果は、Chem. Sci.誌に掲載され高い評価を受けている。また、有機材料の設計自由度の高さを実証し、さらなる分子設計により、優れた残留分局値を示す高密度メモリ材料の開発を実現するための重要な結果である。一方向分子回転運動が、P-Eヒステリシスの抗電場、すなわち分極反転エネルギーを大きく低下させることを見出した。これは、生体内における一方向運動がエネルギー変換効率の低減に大きく寄与している事実と一致する結果であった。さらに、ベンゼンの1,4-ジアルキルアミド置換誘導体における強誘電性のアルキル鎖長と偶奇効果に関する系統的な検討、光応答性アルキルアミド置換アゾベンゼン誘導体に関する検討を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
イオンチャネル型ハイブリッド有機誘電体を設計し、その分子集合体構造、相転移挙動、誘電応答およびP-Eヒステリシス曲線の評価から、イオン変位の有無及び大きさと残留分極値の大きさに相関があることを確認した。イオンチャネルを形成するクラウンエーテル分子のポアサイズに対して、包接イオンをNa+, K+, Cs+と段階的にサイズを大きくすることで、その運動自由度を制御した。チャネル内におけるイオン変位は、新たな分極を発生させる結果をもたらし、Na+塩の抗電場はCs+塩よりも大きな値を示した。強誘電性とイオン変位の共存による新規なハイブリッド分子性強誘電体の設計は、有機材料に特徴的な分子性材料を提供する。分子集合体中の運動様式は、分子のキラリティに依存する事が知られている。1次元系水素結合型の強誘電体である、1,3,5-アルキルアミドベンゼン誘導体(3BC)の側鎖をキラルアルキル鎖とした誘導体(S-3BC)を新たに設計し、その強誘電性を評価した。興味深い事に、アキラル体とキラル体の抗電場の大きさは明らかに異なり、後者の値が前者の値の1/10程度に低下した。強誘電性の発現は、1次元アミド水素結合鎖の反転運動に起因する事から、アキラル体ではランダムな回転運動が生じ、キラル体では回転方向が揃った運動が生じていると考えられる。この運動モードの相違がエネルギー散逸と関係し、抗電場の値におおきな変化を生じたと結論できる。また、ベンゼンの1,4-ジアルキルアミド置換誘導体における強誘電性のアルキル鎖長と偶奇効果に関する系統的な検討、光応答性アルキルアミド置換アゾベンゼン誘導体に関する検討を実施し、その研究成果を学術誌に発表した。
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今後の研究の推進方策 |
プロトン・イオン・分子の運動が共存したダイナミックな分子集合体の設計から、強誘電性・強弾性・メモリスタに代表される分子強物性を実現し、物理パラメータP-E、F-DおよびI-Vヒステリシスを設計する事を目的に4年間の研究を実施してきた。分子性強誘電体に関して、これまでに蓄積してきたデータを元に研究を総括する。「π電子コア+アルキルアミド鎖」の分子設計により、ベンゼンに対するアルキルアミド鎖の置換位置と強誘電性の相関をまとめる。分子集合体におけるアルキル鎖の部分融解が強誘電性に及ぼす効果を解明するため、鎖長の異なる誘導体を作製し系統的に強誘電体パラメーターの評価を実施した結果を元に、分子集合体中におけるダイナミクスの設計に関する総合的な指針を提案する。また、キラルアルキル鎖をベンゼン誘導体に導入する事で、分子集合体の対称性を低下さると同時に一次元水素結合カラムのパッキング様式と分子間水素結合の設計から強物性の制御を実現する為の指針を深める。強誘電性の一次元水素結合カラム内に反強誘電性分子を導入する事で、分極反転を支配する強誘電性ヒステリシスに及ぼす影響に関しても検討を試みる。 I-Vヒステリシスを示すメモリスタ材料に関する研究を進展させる。イオンダイナミクスの設計の観点からクラウンエーテル型のイオンチャネルに着目し、強誘電性との共存を試みた。イオンサイズとイオン変位がP-Eヒステリシスと相関する事を見出したので、それらの構造-物性に関する評価を元にしてさらなる分子設計を実施する。 アルキルアミド鎖を導入した多様な強誘電体を実現してきた。そのキーワードとして、π電子系、キラリティ、混晶、多重機能性などが挙げられる。これらの研究成果を元にして機能性分子集合体の研究がさらなる進展を遂げるための総合的な研究手法の確立と有機材料の設計自由度を最大限に活かした指針の提案を試みる。
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