研究課題/領域番号 |
19H00887
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
菱川 明栄 名古屋大学, 物質科学国際研究センター, 教授 (50262100)
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研究分担者 |
森下 亨 電気通信大学, 量子科学研究センター, 教授 (20313405)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | レーザートンネルイオン化 / 強レーザー場 / 電子ーイオンコインシデンス計測 / 分子軌道 / 電子ダイナミクス / H2 |
研究実績の概要 |
新たに導入したYb:KGWレーザー(中心波長:1035 nm)からのフェムト秒レーザーパルス(190 fs)を圧縮するための光学系を構築した。パルス圧縮光学系は多重反射光学系を備えたガスチャンバーとチャープミラーから構成されており、高いスループット(90%)でのパルス圧縮を実現した。得られたフェムト秒レーザーパルス(35fs,>10 kHz)を用いて,単一分子から生成した電子運動量3次元分布の計測を行った。高繰り返し化に伴って単位時間あたりの電子検出事象は従来のレーザーシステムを用いた場合に比べて大きく増加し、迅速にトンネル電子の運動量分布が計測できることが示された。これを利用して解離イオンとトンネル電子運動量の同時計測を行い、分子座標系におけるH2分子の光電子角度分布(MFPAD)を測定した。得られた結果はトンネルイオン化理論に基づいて行った1sσg最高被占有分子軌道(HOMO)に対する計算と良い一致を示した。また3次元光電子運動量トーラスの断面として観測された垂直運動量分布(TMD)についても理論計算との比較による定量的な検討を行った。また,他の2原子分子についての実験にも着手し,適切な実験条件について検討を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高繰り返しフェムト秒レーザーの導入に遅れがあったものの,新たに設計構築したパルス圧縮系の立ち上げを滞り進めることができた。これによって,電子ーイオンコインシデンス計測にかかる時間を大幅に短縮することができ,予定していた計測を計画通り進めることでき,研究が概ね順調に進呈している。
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今後の研究の推進方策 |
円偏光レーザー場における水素分子からのトンネル電子の運動量分布を3次元計測し,分子座標系光電子角度分布と垂直運動量分布 (TMD)の計測を行う。高繰返しレーザー装置を用いてレーザー場パラメータを系統的に変化させた実験をすすめ ,トンネルイオン化レートおよびTMDと最高被占有分子軌道(HOMO)の運動量空間波動関数との対応を調べる。理論計算をリファレンスとして,非断熱効果,同位体効果について定量的な検証を行う。 他の2原子分子についての実験も継続し,特にπ対称性HOMOをもつNOやO2分子について検討を進める。本研究で用いる分子座標系光電子分布の 計測には解離過程において「反跳条件」が満たされている必要があるが,適切な解離経路が存在しない場合は,別のレーザーパルスを用いて解離過程を誘起する方法について検討を進める。
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