研究課題
走査型トンネル顕微鏡を用いた単一分子レベル発光検出の技術と知見を活かし、探針増強電場を利用したラマン散乱の観測に取り組んだ。この研究を通して、チャンバー外部から探針部位に励起光を正確に導入する技術を確立するとともに、金属上の分子の吸着構造とそのダイナミクスを明らかにした。ラマン散乱の実験では、励起光源(HeNeレーザー、波長632.8 nm)からの光を急峻な波長特性をもつビームスプリッタで反射させてチャンバー内に導入し、探針先端部位に集光した。後方散乱信号を取り出し、レイリー散乱成分をカットしたうえで分光器と液体窒素冷却型CCDカメラで検出する構成とした。励起光をナノギャップに正確に集光するため、分光器をゼロ次回折に設定することで探針先端の実像をCCDで直接観測する方法論を見出すとともに、この技法を論文として発表した。この装置を駆使し、銀探針の先端近傍に吸着させた単一ペンタセン誘導体分子の振動構造および吸着構造の研究を展開した。観測されたラマン信号は数分の時間スケールで明滅を繰り返したことから、液体窒素温度においても吸着分子が探針表面上をゆっくりと並進運動し、電場増強領域への出入りを繰り返していることがわかった。また、観測されるラマンバンドの数が変化し、ラマン活性な振動モードだけでなく、赤外活性なモードも同時に観測された。これは赤外・ラマンの交互禁制律が破れていることを意味しており、試料分子の中心対称性が失われていることを示す。さらに、ラマンバンドの振動数も時間的な変動を示し、対応する分子振動の力の定数が増減することも明らかとなった。これらの観測結果から、銀探針のようなナノスケールの凹凸を有する金属上に吸着した有機分子は、吸着構造によっては表面金属原子と電荷移動を起こしたり化学結合を作ったりし、その結果、分子構造の歪みや化学結合強度の変化が引き起こされると考えられる。
令和4年度が最終年度であるため、記入しない。
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