研究課題/領域番号 |
19H00890
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
中嶋 敦 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (30217715)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ナノクラスター / 超原子 / 超原子周期律 / 超原子集積膜 / ヘテロ接合界面 |
研究実績の概要 |
本研究では、パルスマグネトロンスパッタリング法によるナノクラスターの精密気相合成法を基礎に、金属内包シリコンケージナノクラスターM@Si16による擬球形の超原子を対象に、前年度までのヘテロ集積膜や6族遷移金属原子の内包の研究成果を踏まえて、以下の3つの課題、(1)『超原子周期律』の化学、(2)均一組成かつ急峻な『超原子pn層界面』の機能物性、(3)『超原子層』の電磁気物性、に取り組んだ。 超原子周期律では、これまでの3族から6族の金属原子に加えて、7族の金属内包シリコンケージクラスター(M@Sin)が、ケイ素原子16個のケージ内に内包される構造体として生成することを見出すとともに、さらに少ない原子数でもSiケージに内包されることを見出した。これは、内包原子の大きさと総価電子数の電子閉殻の協同が、これまでのM@S16超原子と異なる挙動をもたらすことを示している。 また、超原子pn層界面では、タンタル原子とルテチウム原子をそれぞれ内包させたM@Si16のヘテロ接合界面を構築した成果を踏まえて、基板上に予め蒸着する有機分子の電子物性の役割を明らかにした。n型のC60、またはp型のコロネン分子を蒸着して、その超原子層における電子的挙動をX線光電子分光(XPS)と紫外光電子分光(UPS)を用いて調べたところ、最近接の超原子の電荷状態が有機分子の種類によって制御できることがわかった。 さらに、超原子層を用いた超原子集積膜の電気特性評価では、中心原子を3族から5族までの範囲で変化させてM@Si16超原子集積膜をそれぞれ作成し、その薄膜の電気伝導度を真空低温四探針プローバーによって温度依存性を含めて評価した。超原子薄膜の電気伝導性は、超原子の総価電子数ばかりでなく、超原子軌道の縮重度にも依存することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究代表者が考案したパルスマグネトロンスパッタリング法によるナノクラスターの精密気相合成法を基礎に、従来の原子・分子単位の薄膜形成法の限界を超えて、新たなナノ機能物質科学を構築することを目的として研究を進めている。精密に構造化させた金属内包シリコンケージナノクラスターM@Si16の超原子に対して、以下の3つの課題、(1)『超原子周期律』の化学、(2)均一組成かつ急峻な『超原子pn層界面』の機能物性、(3)『超原子層』の電磁気物性、に取り組んでいる。 これらの計画に対して、超原子周期律では、7族の金属内包シリコンケージクラスター(M@Sin)が、ケイ素原子16個よりも少ない原子数でもSiケージに内包されることを見出した。また、超原子pn層界面では、基板上に予め蒸着する有機分子の電子物性の役割を明らかにした。。n型のC60、またはp型のコロネン分子を蒸着すると、最近接の超原子の電荷状態が有機分子の種類によって制御できることがわかった。さらに、超原子層を用いた超原子集積膜の電気特性評価では、超原子薄膜の電気伝導性が、超原子の総価電子数ばかりでなく、超原子軌道の縮重度にも依存することを明らかにした。 これらの研究から、M@Si16の超原子的な挙動を系統的に明らかにするとともに、超原子が直接的に接合した層界面の構築とその界面での電子の振る舞いを、分子レベルで明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までの研究成果を踏まえつつ、以下の3つの計画を進める。まず、ナノクラスター超原子の蒸着、および液相捕捉の精密化では、パルスマグネトロンスパッタリング法によるナノクラスター生成源を用いて、遷移金属原子を内包したシリコンナノクラスター超原子(M@Si16)の集積膜と分散液を実現し、今年度までにタンタル(Ta)原子を内包させたTa@Si16を300層まで多層化させた集積膜の伝導特性などを明らかにした。今後は、3族、4族の遷移金属原子を内包させたハロゲン様(p型)、希ガス様のM@Si16超原子の集積膜を創製し、その伝導特性を測定してタンタル原子内包の場合との差異から、電子物性を考察する。 また、ナノクラスター超原子のpn層界面の構築では、中心金属原子を置換して同一球状構造のM@Si16超原子をp型層、n型層として作り分け、これらを順次蒸着することによって急峻なヘテロな超原子pn層界面を形成できることをこれまでに実証してきた。今年度までにTa@Si16、およびルテチウム(Lu)を内包させたLu@Si16の接合界面を構築した成果を踏まえて、今後は、バナジウム(V)やスカンジウム(Sc)などの、中心金属の異なるM@Si16超原子のpn層界面を固体基板上に作製し、超原子層の構造をX線光電子分光(XPS)と紫外光電子分光(UPS)を用いて、その電子状態を評価する。 さらに、超原子集積膜の電磁気物性では、中心原子の変化によってM@Si16超原子の価電子総数を変化させて、その電子物性が変化する様子を今年度までに7族の遷移金属まで拡張できた。そこで、7族金属原子を含めて、3族から7族までの金属原子を内包させたM@Si16超原子のそれぞれの薄膜の電気伝導度を、その温度依存性から電気伝導機構を解明する。
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