研究課題/領域番号 |
19H00891
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研究機関 | 分子科学研究所 |
研究代表者 |
山本 浩史 分子科学研究所, 協奏分子システム研究センター, 教授 (30306534)
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研究分担者 |
川椙 義高 東邦大学, 理学部, 講師 (40590964)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 有機トランジスタ / 強相関電子系 / 超伝導デバイス / モット絶縁体 / スピントロニクス / キラル伝導体 |
研究実績の概要 |
2021年度はキラルなモット絶縁体を用いたスピントロニクスにおいて大きな進展があったほか、強相関電子系の相図探索および室温動作モットFETの開発について一定の結論を得ることにより、今後の方針を立てることが出来た。化学ドープされた有機モット絶縁体であるκ-(BEDT-TTF)_4Hg_2.89Br_8の電界効果測定においては、界面トラップ準位の密度を減らすことが困難で、低温測定には不向きであることが明らかとなった。一方で、強相関電子系であるα-(BEDT-TTF)_2I_3やκ-(BEDT-TTF)_2Cu_2(CN)_3を用いた電界効果デバイスの作製には目途が立ち、基板曲げによる実効的圧力効果の検証にも成功した。前者はディラック電子相、後者は量子スピン液体相と周辺電子相との関連を今後検証する。キラルな強相関電子系であるκ-(BEDT-TTF)_2Cu(NCS)_2については、純良薄膜単結晶の成長条件や、結晶の有する掌性分布について基礎的な情報を得ることが出来た。また、強磁性電極を付けた薄膜デバイスを作製し、電極の磁化を変化させながら超伝導相での伝導度測定を行ったところ、電極磁化の変化とともに変動する抵抗成分を観測することに成功した。これは超伝導相での電流が何らかのスピン偏極を伴っていることを示唆している。今後CISS (Chirality Induced Spin Selectivity)効果やEdelstein効果との関連性を詳細に調べる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ホールドープされた有機モット絶縁体であるκ-(BEDT-TTF)_4Hg_2.89Br_8の電界効果デバイスについて検討を行ったところ、低温動作に必要な清浄界面を得るのは困難であり、EDLTによる高密度キャリア注入を行っても電界効果は観測出来なかった。一方でα-(BEDT-TTF)_2I_3やκ-(BEDT-TTF)_2Cu_2(CN)_3を用いた電界効果デバイスにおいては低温での動作確認が完了し、基板歪みによる物性制御にも目途がついた。 室温モットFETの開発については、末端にジエン構造を有するアルキル鎖を導入したテトラチアフルバレン誘導体を合成し、高分子化反応による単分子薄膜の安定化を目指して検討を行った。末端ジエン構造を有する分子についても単分子薄膜の作製に成功し、良好なFET特性が得られたが、高分子化反応によってデバイス性能が劣化することが明らかとなった。 キラルモット絶縁体を用いたスピン注入については、P2_1の空間群を有するκ-(BEDT-TTF)_2Cu(NCS)_2のバルク結晶について、掌性を決定するための検討を行った。その結果、局所X線構造解析により結晶の上端と下端で掌性が反転しているケースが多いことを見出した。また結晶の薄膜化についても検討を行い、溶媒や温度を工夫することにより比較的大きな薄膜単結晶を得られることが明らかとなった。 また、薄膜デバイスを作製し、超伝導転移を確認しつつ、電極を強磁性金属で作製することにより、スピン偏極の検出を試みたところ、スピン由来と思われる信号の検出に成功した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は有機強相関電子系材料に対して電気二重層トランジスタによる電気化学ドーピングを行い、より高密度でのキャリア注入による新たな電界効果デバイスの実現を試みる。これまでに開発した薄膜結晶貼り付け法と、基板歪み印可装置とを組み合わせて、希望するバンド幅に電子系を誘導し、バンド幅制御相転移の近傍でバンドフィリングの変調計測を行う。対象を、電荷整列相やディラック電子相で知られるα-(BEDT-TTF)_2I_3および量子スピン液体の候補物質とされるκ-(BEDT-TTF)_2Cu_2(CN)_3に集中し、ディラック電子相や量子スピン液体相と超伝導体相との関係について、熱力学相図の観点から検証する。 キラルな結晶構造を有する有機強相関電子デバイスについては、これまでに予想以上の成果が得られつつあるため、さらに集中的に実験を行う。κ-(BEDT-TTF)_2Cu(NCS)_2を用いた超伝導デバイスからのスピン流生成について、より詳細な検討を開始する。左右キラル結晶の判定や、その作り分けについて検討を行い、結晶のキラリティとスピン偏極の関係について検証するほか、磁場を回転することによって磁性電極の磁化を回転し、超伝導デバイスから生成されるスピンの偏極方向に関する情報を取得する。そのスピン偏極の大きさや向きを評価することによって、CISS(Chirality Induced Spin Selectivity)効果との関連性を検証し、Edelstein効果として知られるスピン偏極現象との類似点と相違点について議論する。
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