研究課題/領域番号 |
19H00894
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
大井 貴史 名古屋大学, 工学研究科(WPI), 教授 (80271708)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ルイス酸 / ルイス塩基 / 一電子移動 / 酸化還元反応 / 光触媒 |
研究実績の概要 |
ルイス酸・塩基間での一電子移動が従来報告されていた特殊なルイス対間でのみ起こるのではなく、より一般的かつ有機合成的な利用が可能である分子間でも起こることを実証した。ルイス酸としてトリスペンタフルオロフェニルボラン(BC6F5)3、ルイス塩基としてアニリン誘導体を用い、これら分子間で一電子移動反応が分子構造に応じて熱的条件もしくは光照射下において進行することを見出し、またその一電子移動の鍵中間体が電荷移動錯体(EDA錯体)であることを実験と理論の両面から明らかにした。この基礎的な知見を元に触媒的炭素-炭素結合形成反応へと展開し、(BC6F5)3が従来のルイス酸としての機能のみならず一電子酸化・還元触媒としても機能し得ることを見出した。これら一連の成果はChemical Science誌に投稿・受理され、FRONT COVERとしても採用された。また、国内での学会・シンポジウムにおいて2件の発表を行った。 上記の成果はホウ素化合物が一電子酸化・還元触媒として機能することを実証した成果である。ここでルイス酸は一般的に電子不足な化合物であるためその光励起状態では更に高い酸化力を有することが期待でき、ルイス酸である電子不足ホウ素化合物の直接励起による高い酸化力を活かした光触媒反応開発ができると考えた。モデル反応において、収率に未だ改善の予知があるものの、ホウ素化合物が励起状態において高い酸化電位をもつ芳香族化合物(2.0 V > vs SCE)を一電子酸化し、強力な一電子酸化触媒として機能することを発見した。加えて、電子スピン共鳴(ESR)測定や過渡吸収測定によりその反応機構の全体像を明らかにし、次年度以降の研究の展開を期待出来る成果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一般的なルイス酸・塩基間での一電子移動を実証し、その成果を論文として一報発表した。対外的な成果としてはまだ少ないが、本研究は新しい学理を構築する開拓性の高い研究であり、また研究初年度においては未発表ながらも今後のこの化学の発展に寄与する重要な知見となりうる成果を得ており、次年度以降の大きな発展を期待出来るものであった。 また「ラジカルイオン対を酸化・還元触媒とする反応開発」は、反応機構解析の結果当初の想定していた反応機構とは異なる機構で進行していることが分かったが、電子不足なホウ素化合物が光励起状態において高い酸化能をもつという新たな機能を発見するに至った。この知見は被酸化基質をルイス塩基として考えれば広義でのルイス酸・塩基間での一電子移動であり、本研究の新たな方向性を見出す成果であったと言える。 一方、申請書に記載した「ルイスペアの分子設計に基づく機能創出」においては望みの機能を有する分子を本年度においては創出できておらず、遅れていると言わざるを得ない。上記の分子間での一電子移動反応機構解析の知見も念頭にいれつつ、分子設計指針の方針転換を行う予定である。 以上、触媒反応として高い収率で進行している反応はまだ数例に限られているが一電子移動反応の機構や、反応中間体である活性ラジカル種の寿命および反応性に関する知見が蓄積されており、今後の発展への基礎が研究初年度において確立できたため上記の判断とした。
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今後の研究の推進方策 |
研究初年度の成果によりルイス酸であるホウ素化合物の電子構造および立体構造が反応中間体のラジカルアニオンの安定性に大きく影響を与えることが明らかとなった。この結果を踏まえて、今後は分子間・分子内の触媒系を問わずルイス酸側の中心元素および置換基のスクリーニングを行い、目的とする触媒反応に応じた適切な構造のチューニングを施す。 「ルイスペアの分子設計に基づく機能創出」においては、当初設計したルイス塩基としてアミド基を有する分子において光照射後に一電子移動反応が実際に起こっているのか実験的な証拠が得られておらず、触媒としての機能も見い出せていない。そこで、ルイス酸・塩基間を結んでいるπスペーサーの構造を改変するとともにアミド基の置換様式の変更を施す。加えて、アミド基のみならずアレノールやチオアレノール、カルボキシレートなど、従来のルイス酸・塩基の一電子移動の化学においてあまり注目されてこなかった官能基をルイス塩基部位として導入し、ルイスイオン対の触媒化学の一般性と適用可能な官能基の制限に関しての理解を深めるとともに、触媒反応においても官能基の違いによる反応性や選択性の違いを明確にし、合成化学的な側面からもこの化学の深化を目指す。
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