研究実績の概要 |
チオフェン類を基質として単体リチウムによる還元を検討したところ、チオフェン環内の2つの炭素ー硫黄結合の切断、すなわち脱硫を伴った還元的ジリチオ化が進行することを明らかにした。中間体として生じる1,4-ジリチオ化体は各種二官能性求電子剤でワンポットで捕捉することでエキゾチックヘテロ環を合成できた。具体的には、ジクロロシラン、ジクロロゲルマニウム、アリールジメトキシボラン、ジクロロフェニルホスフィンオキシドを求電子剤として、それぞれ、シロール、ゲルモール、ボロール、ホスホールオキシド類が得られた。これらのヘテロ環化合物のなかでもラダー型構造を有する分子群は強い蛍光発光を示すこともみつけた。また、一ヘテロ原子ユニットだけでなく、二炭素ユニットとしてヘキサフルオロベンゼンやアルキンを挿入してベンゼン骨格を組み上げることもできた。新形式の芳香環メタモルフォシスとして極めて意義深い。 この研究の途上で、シクロプロパンの還元的な開環による1,3-ジボリルアルカンの発生、アリールスルホニウム塩の還元的亜鉛化による有機亜鉛種の発生、芳香環メタモルフォシスによるジヘテロ[8]ヘリセン類の網羅的合成も発見し、還元的な手法の有用性を副次的に示すこともできた。 芳香環の還元的破壊に基づく有機合成に関する研究が認められつつあり、国内外の学会でオンラインではあるが招待講演を行った。また、台湾化学会より論文投稿の依頼があり、芳香環の還元的破壊に関する総合論文を執筆した。
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