研究課題/領域番号 |
19H00901
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
川野 竜司 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (90401702)
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研究分担者 |
鈴木 宏明 中央大学, 理工学部, 教授 (20372427)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | DNAコンピューティング / ナノポア計測 / マイクロ流体技術 / リポソーム / コアセルベート |
研究実績の概要 |
本研究ではDNAコンピューティング技術とナノポア計測によるラベルフリーDNA分子検出法を組み合わせることにより、早期がん診断マーカーとして期待されるmicroRNA(miRNA)群のがんパターン診断法の構築をめざす。申請者はこれまで、ナノポア計測によるDNA演算出力分子の迅速検出、これを利用したmiRNA群のパターン診断への応用について研究してきた。最近我々が開発した胆管癌時に発現亢進する5種miRNAパターン認識法が、実際のがん患者の血液検体にも適用可能であることを見出している。これまで熱力学的シミュレーションを用いた診断用DNA設計法の最適化、実検体を用いた計測、また胆管癌以外の口腔扁平上皮癌を診断するためのmiRNAパターンの決定をマイクロアレイ解析および先行研究のメタアナリシス解析に関して行った。これらの実験を推進する中で、これまでナノポア計測では計測不可能であった超低濃度領域(~fM)のmiRNAを検出する方法を発見したが、その機構は明らかではなかった。 本年度は超低濃度領域でのナノポア検出の機構を実験、理論の両方から評価し、ポア二分子が挿入するときのエネルギー障壁が実験条件によって変化することを見出した。現在この結果を投稿中である。分担者の鈴木は、別のアプローチからの診断の高感度化を見据え、リポソーム内核酸増幅法の確立を目指している。今年度は、定量解析に向けて最重要課題である、マイクロ流路を用いた均一リポソーム製造法を確立した。並行して、複合コアセルベートを、サンプル中に低濃度で存在する核酸を高濃縮する目的に利用する課題に取り組んだ。今年度はこれらに関連する成果に関して、査読付き論文3報、特許1件出願、国内外の複数の学会において公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は本研究課題推進中に発見した、超低濃度miRNAのナノポア検出技術の詳細について述べる。従来ナノポア計測における核酸分子の検出限界は測定溶液を最適化することでおよそ~1 pM程度であった。体液中のmiRNAを定量する場合この1 pM以下のサブpMレベルの検出が要求される。今回申請者らが設計した診断用DNAを用いると実検体中の超低濃度miRNAが検出できているようなデータを得ることが出来た。実検体中のmiRNAの濃度を定量PCRで評価したところ、やはりサブpM~fMの濃度であることがわかり、なぜナノポアで検出できたのか不明であった。これを解明するため実験、理論両面から検討を行った(ACS Nano2020)。いくつかの検討を行ったところ診断用DNAの構造が重要であることが明らかになってきており、この構造によりナノポアに挿入されるときのエネルギー障壁が下がることが分かってきた。現在この成果に関して論文を投稿中である。またmiRNAの発現上昇と減少を同時に認識するDNAコンピューティング技術も開発中である。 分担者の鈴木とは、ポリカチオンとアニオンが作る複合コアセルベートを利用し、液中のコアセルベートの濃縮を試みている。複合コアセルベートに、標的であるmiRNAが1000倍程度の高濃度に濃縮されることを、蛍光標識により確認した。次のステップとして、濃縮したmiRNAを配列特異的に検出する方法を検討した。一般的に用いられるRT-PCR法については、コアセルベートの組成やそれを溶解・抽出させるプロトコルを試したが、必要な酵素反応を阻害することが明らかとなった。川野との共同研究により、系がシンプルで高塩濃度条件でも行えるナノポア検出が有望である感触を得ており、検出に最適な条件検討を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は最終年度であるので、今年度明らかになった低濃度miRNAの検出法、コアセルベートによる分離濃縮技術を融合させ、低濃度miRNA溶液から特定のmiRNAの高感度検出を試みる。具体的には口腔扁平上皮癌(OSCC)をナノポア診断するためのmiRNAパターンの決定とリポソームやコアセルベートを用いた超低濃度検出を行う。またこれまで申請者らが開発してきたDNAコンピューティング技術基盤のナノポア計測では、miRNAの発現が向上する場合のパターン認識には成功しているが、発現減少、発現上昇・減少が同時に起こる場合に関してもそのパターンを認識する方法が求められる。今年度は、これに関してもめどが立ってきたので、最終年度はこれらを組み合わせてがん診断に資する技術としてまとめる予定である。
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