研究課題/領域番号 |
19H00906
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
瀧宮 和男 東北大学, 理学研究科, 教授 (40263735)
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研究分担者 |
Bulgarevich Kirill 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, 特別研究員 (60880268)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 有機半導体 / 超分子化学 / 結晶構造制御 / 有機電子デバイス / 結晶構造予測 |
研究実績の概要 |
今年度、下記1),2)を中心に研究を進めた。 1) 昨年度見出したメチルチオ化したピレン(MT-pyrene)の超高移動度単結晶トランジスタ挙動の再現性やばらつきを明らかにし、また結晶構造を基にした電子構造計算によりその高移動度を裏付けることも可能となり、論文としてまとめることができた。この研究過程で、新たな単結晶育成法を開発でき、多数の単結晶から成るトランジスタ(多単結晶トランジスタ)も良好な挙動を示すことを見出した。また、高移動度トランジスタを用いた擬CMOSの作製にも成功し、本材料が本質的に高いポテンシャルを持つことを明らかにできた。さらに、ピレン骨格にメチルチオ基を導入するための新たなメチルチオ源となる試薬(安価、無臭)を提案しそれを用いた簡便メチルチオ化法を確立できた。同様の手法でメチルセレノ化にも成功しており、メチルセレノ化されたピレン(MS-pyrene)の合成に応用した。 2) これまでメチルチオ基を種々の有機半導体骨格に系統的に導入し、母骨格とメチルチオ体の結晶構造に相関がみられ、分子構造から得られる結晶構造系の予測(分類)が可能であることが分かってきた。この知見を基に、分子間相互作用の計算を基盤に、固体電子構造が議論できるレベルでの結晶構造予測へと展開することを検討した。その結果、MT-pyreneの結晶構造予測を検討し、実験的に決定された構造とほぼ同等の結晶構造が得られることを確認した。 以上に加え、キラル2-エチルヘキシル基を用いる種々のキラル有機半導体の合成とその挙動に関する検討、新規なn型ドーパントの開発と有機熱電変換への応用、分子動力学計算による熱揺らぎのシミュレーションと半導体特性への影響の検討、また有機薄膜太陽電池のための新規n型半導体の開発などを行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究開始時当初計画していた以下の項目、 1) 多様な有機半導体骨格への位置選択的置換基導入による結晶構造制御と高移動度材料の開発、2) キラル有機半導体の開発と光学活性置換基の効果検証、3) 三次元構造をもつ有機半導体分子による分子集合体形成の検討、4) 有機熱電材料の開発、について、材料合成と解析、デバイス応用などについて所定の成果を得ている。これらに加え、超高移動度の実現、新たな高効率単結晶育成法の開発、単結晶トランジスタによる輸送特性評価、さらにはMDシミュレーションの応用など、計画以上の進展がみられている。さらに、一連の結晶構造制御の検討の中で、分子構造と結晶構造の良好な相関を見出すことができ、結晶構造系の予測(分子構造から結晶王増の分類)が可能となったと判断している。これに加え、今年度新たに検討を開始した分子間相互作用の量子化学計算を基盤とする結晶構造予測の検討により、限られた分子系ではあるものの、電子構造を議論できるレベルでの正確さで結晶構造を予測することが可能となっており、今後の本格的な展開への手掛かりを得ることができた。これらの体系化された成果を総合的に判断し、研究は予定以上に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに、1) 置換基導入による分子性半導体の結晶構造制御と高移動度化、2)分岐アルキル基、ポリエーテル基、トリアルキルシリル基などの有機半導体骨格への導入による分子集合体構造の制御、3) 非平面有機半導体の開発、4) 量子化学計算と分子動力学シミュレーションによる物性と結晶構造予測への挑戦、に重点を置き研究を進めてきた。最終年度となる今年度は、以下の項目について検討を進める。なかでも、有機半導体の超分子性を理解するためには結晶構造制御が鍵となることから、1)と4)を重点的に検討する。 1) 従来と同様に結晶構造制御の母体として用いる分子性半導体骨格の種類と導入する置換基を広げ、結晶構造制御の一般性を検討する。 2) 官能基による分子配向制御の展開として、高光学純度の2-エチルヘキシル基(~98%ee)の官能基変換法と有機半導体への簡便導入法を応用し、半導体ポリマーへの展開を図る。低分子では導入数に限りがあるが、高分子主鎖上に周期的に導入することで、溶解性、結晶性、分子配向への影響を検証する。 3) ボウル型の分子構造を有するチオフェン縮合サブフタロシアニンの構造拡張のため、合成中間体となりうる反応性置換基を有する化合物の合成に着手するとともに、誘導体化を検討する。これにより、ボウル構造の広さや深さ、さらには周辺の官能基を変化させ、結晶構造や物性への影響を明らかにする。 4)1)と関連して、これまでの計算化学の活用は、構造解析により得られた結晶構造中の移動積分や分子間相互作用の大小により、構造物性相関を説明する、ことに重きが置かれてきた。今年度は、動的な影響の評価のため分子動力学シミュレーションを本格的に活用するとともに、分子間相互作用計算の拡張による結晶構造予測のための方法論の確立を目指す。
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