今年度、下記1) -4)を中心に研究を進めた。 1)メチルカルコゲノ基の位置選択的導入による結晶構造制御について、ベンゾジカルコゲノフェンやピレンを母骨格とする系で系統的な検討を実施し、置換基内のカルコゲン原子の効果による結晶構造や移動度への影響を明らかにした論文を発表することが出来た。これらに加え、チエノアセン系についても母骨格の異性体の効果とメチルチオ基による修飾の効果を明らかにすることができ論文として発表した。さらに、アセン系、ペリレン系、拡張ピレン系、含複素ペリ縮合系など、種々の骨格へメチルチオ基を位置選択的に導入した分子群を合成し、結晶構造と分子構造の相関を考察した。その結果、母骨格がヘリンボーン構造を与える分子系(アセンジカルコゲノフェンやアセン系)からは傾斜型π積層構造が、サンドイッチヘリンボーン構造を与える分子系(ペリ縮合系)からはレンガ塀構造(二次元π積層構造)が得られるという、一般的な傾向があることが確認できた。 2)1)と関連して、レンガ塀構造の結晶構造を与える分子は高移動度を与える傾向が高いが、分子相対位置のわずかな違いにより特性が大きく変わることも確認されている。そこで、分子間相互作用エネルギー計算を拡張したレンガ塀構造のシミュレーション法を検討し、実験による構造と極めて良い一致を示す構造予測を可能とする計算手法(イン・シリコ結晶化)を開発した。これにより、ペリ縮合系分子のレンガ塀型結晶構造を予測し、高性能有機半導体として有望な分子を探索することが可能となった。 3)高光学純度の2-エチルヘキシル基の官能基変換法と有機半導体への簡便導入法を応用し、ポリチオフェンに導入した分子を合成し、キラル体、ラセミ体(キラル体の等量混合物)、ジアステレオマー体を比較することで、高分子側鎖の光学特性の違いにより凝集特性が顕著に変化することを見出した。
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