研究課題/領域番号 |
19H00912
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
櫻井 英博 大阪大学, 工学研究科, 教授 (00262147)
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研究分担者 |
燒山 佑美 大阪大学, 工学研究科, 准教授 (60636819)
福島 孝典 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 教授 (70281970)
中野 雅由 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (80252568) [辞退]
岸 亮平 大阪大学, 基礎工学研究科, 准教授 (90452408)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | スマネン / ソフトマテリアル / 錯体高分子 / 一重項励起子分裂系 |
研究実績の概要 |
本研究では、フラーレンの部分構造に相当する、お椀型湾曲芳香族化合物「スマネン」をモチーフとして、そのユニークな性質、および集合体構造の特徴を生かし、真に日本独自のマテリアルとして成長させるための発展研究を行う。4つのテーマに対して、それぞれ簡潔に成果を記す。 ①新たな一重項励起子分裂系分子に関しては、単量体に関する基礎的な物性の測定を完了し、現在論文を投稿中である。溶液中での挙動を確認するためには2量体の合成が有効であるが、アセンの鍵中間体となるベンゾキノン誘導体についての2量体、および3量体の合成に成功した。今後、これらをアセン誘導体へ反感することが目標となる。 ②スマネンをメソゲンとする液晶分子候補の探索中、単純なアルコキシメチル基をスマネン芳香環上へ6カ所導入した誘導体に関して、C=4(すなわちC, Oを加えると枝の長さは6原子)の段階で既に液晶性を発現することを見出した。これはこれまでで最も枝長の短い液晶分子であり、さらなる官能基変換も容易であることが予想されることから、有用なモチーフになることが期待される。さらに一炭素短い分子は結晶性を示すことから、この結晶構造を明らかにすることも次の目標である。 ③フッ素置換スマネン誘導体を各種合成し、そのうちジフルオロスマネン単結晶が誘電応答挙動を示すことを見出した。各種測定の結果、カラム状にスタックしたお椀のin plane方向にお椀が揺らぐ現象に由来することを明らかにした。これは、お椀のConcave-Convex間の摩擦が小さいことに起因していると考えられることから、分子設計によりさらなる特性の向上が見込まれる。 ④アザホモスマネンの簡便な合成法を見出した。この結果、一重項励起子分裂系分子の新たなモチーフに対する合成ルートが大幅に簡略化されることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初設定していた4つの研究テーマについて、それぞれの進捗状況には多少差があるものの、いずれにおいても研究は進んでいる。 ①の一重項励起子分裂系については、当初の目的化合物であったアセンの2量体の合成が想像以上に非常に難しく、結果的には、その中間体であるスマネノベンゾキノンの2量体がようやくできたところである。しかしながら、想定外の知見として、3量体の合成が予想外に高収率で得られたこと、また一重項励起子分裂系とは離れるが、新たなドナーーアクセプター分子群の合成が容易にできるようになったことなどが挙げられる。 ②の液晶については、単純アルコキシメチル誘導体でも液晶性がみられたことのインパクトは大きく、今後の誘導化が極めて検討しやすくなったといえる。ここ2年ほどコロナの影響もあり留まっていた共同研究もようやく再開の目処が立ってきたので、残り2年での成果が期待されるところである。 ③の超分子系については、海外の研究機関との共同研究に加え、国内での共同研究もようやく身を結び始めており、極めて順調に進行している。 ④の合成については、スマネンの大量合成法の開発は、担当学生が不在となったため、現在一時的に中断しているが、そのほかの合成手法開発でいくつか大きな進展が見られている。
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今後の研究の推進方策 |
概ね当初の予定に従った研究が進行しているので、2021年度においても大きな柱の4つのテーマに変更はない。 ①一重項励起子分裂系については、1報目の理論論文に対応した実在系の分子の合成およびその測定を最優先し、少なくとも最初の1報は発表するとともに、モデル系となる2量体分子の合成および測定を行う。また、スマネンキノイド系についても理論と実験の両面で本格的に検討を開始する。 ②スマネンソフトマテリアルについては、一昨年度からの継続課題となっているヘキサカルボン酸エステルが示す特異な柔軟ヘキサゴナルカラムナー相の理由について結論づけ、論文化することを最大の目標とする。昨年度、新たな液晶系を発見することができたので、合成研究の中心はこの新液晶系に注力する。 ③錯体高分子については、孤立空孔を有するMOF系の合成と活性分子の取り込みを中心課題とする。またセシウムイオン特異的錯形成を利用した研究についても引き続き応用研究を行う。また、湾曲系COFの合成にも新たにチャレンジを開始する。 ④の合成については、ようやく大量合成検討を担当する学生が10月から参画予定となったので、スマネン合成プロセスの改良を再開する。
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