本基盤Aの研究は、併願していた基盤Sの研究が採択されて本研究の内容を基盤Sに移行したことから、2019年4月から6月までの3か月間の短い期間で終了した。研究の目的は非鉛系ペロブスカイトの三次元結晶材料を合成してその光電変換特性を高めるための結晶の材料設計ならびに結晶薄膜の成膜方法を調べることであり、本研究では、有機基を含まない全無機組成からなる非鉛系ペロブスカイト材料を用いる方法で、耐熱性に優れる光電変換材料を創製する実験を進めた。まず、ビスマス(Bi)系ペロブスカイト材料の結晶薄膜の質を高める目的で、材料の溶液製膜工程で用いる溶媒を高沸点系溶媒混合物にすることで結晶成長を制御し、Bi系結晶が作る薄膜のモルホロジーをピンホールのない緻密で平坦な層構造とする改良を行った。この結果、耐熱性に優れるABi2I9組成(Aは1価カチオン)の三次元ペロブスカイト結晶が得られ、これを太陽電池に用いることで光電変換の効率を当初の2.1%から3%近くまで高めることができた。さらに結晶格子中のAサイトをCsとRb等に置き換えて、ハロゲンを混合ハロゲンとする組成変換によって、結晶の物性を高める可能性を検討した。一方で、鉛系ペロブスカイトについては、鉛含有量を低減するために鉛の一部をゲルマニウム(Ge)に置き換える合成を行った。ここで合成原料のGe前駆体が有機溶媒に難溶な問題が生じたが、ヨウ化メチルアンモニウムをGe前駆体に混合することによって可溶化できることを見出した。この方法でGeドープ型鉛ペロブスカイトを合成して、太陽電池素子の光電変換特性の評価を行った結果、ペロブスカイトの保存安定性が高まると同時に素子の変換効率が23%以上まで高まることを確認した。以上の知見をもとに全無機組成と鉛フリー組成のペロブスカイトを用いる光電変換素子の特徴をまとめた論文を総説として出版した。
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